現場で働きながら、そろそろ介護福祉士を目指したいと考え始めたとき、最初に名前が挙がるのが実務者研修です。ただ、450時間という数字を見て、仕事と両立できるのか、費用はいくらかかるのかと足が止まる方も多いのではないでしょうか。実際には、介護職員初任者研修(以下、初任者研修)やホームヘルパー2級を持っていれば受講時間は320時間に短くなり、給付金や貸付を使えば自己負担も抑えられます。この記事では、厚生労働省と社会福祉振興・試験センターの資料をもとに、実務者研修の位置づけ、カリキュラムの内訳と保有資格別の免除、費用と負担を減らす方法、修了後に広がる仕事の幅までを整理しました。介護福祉士の受験を考えている介護職の方、無資格で働きながら次の一歩を探している方に向けた内容です。
この記事でわかること
- 実務者研修の位置づけと、介護福祉士の受験資格との関係
- 450時間のカリキュラム内訳と、保有資格別の受講時間(320時間・95時間・50時間など)
- 費用の目安と、教育訓練給付金や受講資金貸付で負担を減らす方法
- 修了で得られるメリット(介護福祉士の受験・サービス提供責任者・医療的ケアの基礎)
- 修了までの流れとスクール選びで確認したいポイント
実務者研修とは
実務者研修は、介護福祉士の養成課程のうち、現場経験だけでは身につきにくい知識と技術を学ぶ研修です。正式には介護福祉士実務者研修と呼ばれ、初任者研修の上に位置づけられています。受講に条件はなく、無資格の方でも申し込めます。実務経験ルートで介護福祉士の国家試験を受けるには、この研修の修了が欠かせません。
介護福祉士の受験資格との関係
介護福祉士の国家試験には、養成施設ルートや福祉系高校ルートなど複数の受け方があります。現場で働く方の多くが使う実務経験ルートでは、2016年度(第29回)の試験から、実務経験に加えて実務者研修の修了が必要になりました。
実務経験の条件は、従業期間3年(1,095日)以上かつ従事日数540日以上です。両方を満たす必要がありますが、試験を実施する年度の3月31日までに満たす見込みがあれば、実務経験見込みとして受験を申し込めます。実務者研修も同じく修了見込みで出願できるので、実務経験を積みながら並行して受講しておけば、3年目の試験に間に合わせられます。
初任者研修との違い
初任者研修は介護の入門研修で、130時間で基本的な介護技術を学びます。実務者研修はその発展版にあたり、受講時間が長いことに加えて、たんの吸引や経管栄養を学ぶ医療的ケアの科目があるのが大きな違いです。
科目数や費用、修了後にできることの違いを詳しく比べたい方は、実務者研修と初任者研修の違い|費用・時間・できることを比較で整理しています。初任者研修そのものの内容は介護職員初任者研修とは|費用・期間・取得後の給料差を解説が参考になります。
カリキュラム450時間の内訳と保有資格別の免除
実務者研修のカリキュラムは全20科目・450時間です。ただし、すでに修了している研修があれば、その内容に応じて科目単位で受講が免除されます。厚生労働省の資料でも、450時間すべてを受ける必要がある人は少なく、320時間の受講が平均的な姿とされています。
4領域の科目と時間数
450時間は4つの領域に分かれ、介護福祉士の養成課程と同じ枠組みで組まれています。科目の多くはⅠとⅡに分かれていて、Ⅰは就業初期に学んでおきたい基本的な内容、Ⅱは一定の実務を経てから学ぶ応用的な内容という位置づけです。領域ごとの時間と科目は次のとおりです。
- 人間と社会(40時間)は、人間の尊厳と自立、社会の理解Ⅰ・Ⅱ
- 介護(190時間)は、介護の基本Ⅰ・Ⅱ、コミュニケーション技術、生活支援技術Ⅰ・Ⅱ、介護過程Ⅰ〜Ⅲ
- こころとからだのしくみ(170時間)は、発達と老化の理解、認知症の理解、障害の理解、こころとからだのしくみの各Ⅰ・Ⅱ
- 医療的ケア(50時間)は、たんの吸引と経管栄養の講義で、これとは別に演習がある
このうち介護過程Ⅲの45時間は、スクーリング(面接授業)で行う科目です。通信課程なら通学が必要なのは介護過程Ⅲと医療的ケアの演習に限られ、ほかの科目は自宅でテキストを読み、レポートを提出して進めます。
保有資格別の受講時間
免除される時間は、これまでに修了した研修によって変わります。初任者研修やヘルパー2級なら320時間、ヘルパー1級なら95時間です。厚生労働省が示す保有資格別の受講時間を表にまとめ、費用はスクールの価格帯の目安がつかめる区分だけ載せました。
| 保有資格 | 受講時間 | 主な免除の内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 無資格 | 450時間 | なし | 7〜20万円 |
| 介護職員初任者研修 | 320時間 | 人間の尊厳と自立、介護の基本Ⅰ、生活支援技術Ⅰ・Ⅱ、介護過程Ⅰ、認知症の理解Ⅰなど9科目 | 9〜13万円 |
| 訪問介護員2級(ヘルパー2級) | 320時間 | 初任者研修とほぼ同じ(認知症・障害の理解Ⅰの代わりに介護の基本Ⅱ) | スクールに確認 |
| 訪問介護員3級 | 420時間 | 人間の尊厳と自立、社会の理解Ⅰ、生活支援技術Ⅰ | スクールに確認 |
| 訪問介護員1級 | 95時間 | 介護過程Ⅲと医療的ケア以外のすべて | スクールに確認 |
| 介護職員基礎研修 | 50時間 | 医療的ケア以外のすべて | スクールに確認 |
受講時間は厚生労働省「第4回福祉人材確保対策検討会 参考資料2」(2014年)と「実務者研修の受講のための負担軽減策」によるものです。費用はスクールにより幅があり、地域やコース、通信か通学かでも変わります。
認知症介護実践者研修や喀痰吸引等研修の修了者は、認知症の理解や医療的ケアが免除される場合があります。免除を認めるかどうかは受講先の判断なので、申し込み前に修了証を見せて、時間と受講料がどう変わるかを確認しましょう。
修了までの期間
期間は通信課程で6か月程度が一般的です。東京都が公表している実務者養成施設の一覧(2026年10月1日現在)でも、ほとんどの課程が修業期間6月となっています。厚生労働省の資料では、職場を離れて通う面接授業は7〜9日程度で、土日の受講が一般的とされています。
同じ一覧では、他の研修の修了者向けに6か月未満の有資格者コースを設けている施設もあります。受験に間に合わせたい方は、受験したい年度の3月31日から逆算して開講月を選んでください。
費用の目安と負担を減らす方法
実務者研修の受講料はスクールにより幅があり、目安は無資格で7〜20万円、初任者研修修了者で9〜13万円です。国が定める統一価格はなく、同じ受講時間でもスクールによって金額が違います。一方で公的な支援制度が複数あり、条件が合えば自己負担を大きく減らせます。
教育訓練給付金
雇用保険に加入している方や離職して間もない方は、教育訓練給付制度の指定講座を選ぶと、修了後に受講費用の一部が支給されます。一般教育訓練は受講費用の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練は40%(上限20万円)です。特定一般教育訓練では、2024年10月以降に開講した講座で修了後1年以内に資格を取って雇用された場合、50%(上限25万円)まで上乗せされます。
指定の有無や区分は講座ごとに違うので、厚生労働省の教育訓練講座検索システムで確かめましょう。雇用保険の加入期間などの支給要件は、申し込む前にハローワークで照会しておくと安心です。
実務者研修受講資金貸付と公的職業訓練
都道府県や都道府県が認めた団体が実施する介護福祉士実務者研修受講資金貸付制度では、受講費用や参考図書代を最大20万円まで借りられます。修了から1年以内に介護福祉士の登録をし、その都道府県内で2年間介護の仕事を続ければ、返済は全額免除されます。利用条件は都道府県によって異なるので、窓口で確認してください。
離職中の方は、ハローワークを通じた公的職業訓練(ハロートレーニング)で実務者研修のコースを受けられる場合があります。受講料は原則無料で、テキスト代などは自己負担です。
職場の資格取得支援
もっとも手軽なのが、勤務先の資格取得支援制度です。受講料の全額や一部を施設が負担する、研修日を勤務扱いにするといった支援を設けている職場もあります。シフトを調整してもらいながら働きつつ受講し、その年度の国家試験に間に合わせる進め方もできます。
制度がない職場でも研修日の休みを組んでもらえることがあるので、受講を決めたら早めに上司に伝えておきましょう。
実務者研修を取得するメリット
実務者研修の修了で得られるのは、介護福祉士の受験資格だけではありません。訪問介護のサービス提供責任者になる要件を満たし、医療的ケアの基礎も身につきます。修了そのものによる給料の上がり幅は小さく、その先の介護福祉士やサ責につながる点に価値がある研修です。
介護福祉士の受験資格を得られる
実務経験ルートで介護福祉士を目指す方にとって、実務者研修の修了は避けて通れない条件です。介護福祉士は介護職の国家資格で、給料にも差が出ます。厚生労働省の令和6年度介護従事者処遇状況等調査では、2024年9月時点の常勤の介護職員の平均給与額は、実務者研修修了者が327,260円、介護福祉士が350,050円で、月に約2.3万円の差でした。
受験の流れや合格率は介護福祉士の試験ガイド|受験資格・合格率・パート合格制度を解説で詳しく解説しています。
サービス提供責任者になれる
訪問介護事業所に配置が義務づけられているサービス提供責任者(サ責)は、介護福祉士や実務者研修修了者などが就ける職種で、初任者研修やヘルパー2級だけでは要件を満たせません。実務者研修を終えれば、介護福祉士の資格を取る前でもサ責として働く道が開けます。
サ責は訪問介護計画の作成やヘルパーの調整を担う役職で、役職手当がつく事業所もあります。仕事内容や給料はサービス提供責任者(サ責)とは|仕事内容・必要資格・給料・大変さにまとめています。
医療的ケアの基礎が身につく
実務者研修では、たんの吸引と経管栄養について50時間の講義を受け、シミュレーターを使った演習まで修了します。特養やグループホームで医療的ケアが必要な利用者を受け持つとき、基礎を学んでいることがそのまま現場での強みになります。
ただし、研修を修了しただけで職場でたんの吸引ができるわけではありません。実際に行うには、利用者のもとでの実地研修を修了し、登録を受けた事業所で業務にあたる必要があります。
資格手当と転職の選択肢が広がる
求人票では、実務者研修修了以上を応募条件や資格手当の対象にしている職場があります。令和6年度の同じ調査で、保有資格なしの介護職員の平均給与額は290,620円で、実務者研修修了者とは月に約3.7万円の差がありました。ただし初任者研修修了者(324,830円)との差は約2,400円にとどまるため、給料面では介護福祉士まで進んで差がはっきりします。
資格以外も含めた給料の上げ方は、介護職の給料はいくら?平均年収と年収を上げる5つの方法で解説しています。
修了までの流れとスクール選びの基準
実務者研修は、スクール選びから修了まで半年前後の計画で進めるのが一般的です。介護福祉士実務者養成施設として指定を受けた施設で修了しなければ受験資格にならないため、まずは受講先が指定を受けているかを確かめるところから始めます。
申し込みから修了までの流れ
通信課程を選んだ場合、学習の大半は自宅でのテキスト学習とレポート提出で、通学するのは面接授業と演習の数日だけです。申し込みから修了証明書を受け取るまでは、次の4段階で進みます。
- 指定を受けたスクールを選び、保有資格の修了証を添えて申し込む
- テキストで自宅学習を進め、科目ごとにレポートを提出して添削を受ける
- 介護過程Ⅲのスクーリングと医療的ケアの演習に通学する
- 修了評価を受け、実務者研修修了証明書を受け取る
修了証明書は、介護福祉士の受験申し込みで試験センターに提出する書類です。受講中に出願する場合は、スクールが発行する修了見込証明書を使います。
スクール選びで確認したい4つのポイント
スクールを比べるときは、受講料の安さだけで決めず、通い続けられるか、受験に間に合うかまで見ておきたいところです。次の4点を確認しておくと、途中で通えなくなるリスクを減らせます。
- 通学日の日程と会場が、勤務シフトや自宅から無理なく通える範囲か
- 自分の保有資格による免除が適用され、その分の料金が下がるか
- 教育訓練給付制度の指定講座かどうか
- 修了日が受験したい年度の3月31日に間に合うか
いくつかのスクールの資料を取り寄せ、同じ条件で総額を比べてみてください。資格全体の中での位置づけを確認したい方は、介護の資格一覧|種類・取得順序・費用と給料への影響を解説も参考になります。
まとめ
実務者研修は、実務経験ルートで介護福祉士を受験するために修了が必須の研修で、受講条件はありません。450時間のカリキュラムは保有資格に応じて短縮され、初任者研修修了者なら320時間です。受講料はスクールにより幅がありますが、教育訓練給付金や受講資金貸付、職場の支援制度を組み合わせれば負担を抑えられます。受験したい年度を決めたら、その年度の3月31日までに修了できる開講月のスクールを数校選び、資料を取り寄せてみてください。
よくある質問
Q. 無資格でも実務者研修は受けられますか?
A. 受けられます。実務者研修に受講条件はなく、初任者研修を修了していなくても申し込めます。ただし無資格の場合は免除がないため、450時間すべてを受講することになり、受講料も高めです。介護の仕事が初めての方は、先に初任者研修で基礎を学んでから進むと、レポートや演習でつまずきにくくなります。
Q. 実務者研修に修了試験はありますか?
A. 国が実施する統一の試験はありません。通信課程では科目ごとのレポートが添削・評価され、スクーリングでは介護技術の評価や知識の修得度の確認が行われます。最後に筆記や実技の修了評価を設けているスクールもありますが、研修内容の理解度を確かめるためのもので、落とすための試験ではありません。再評価や補講の扱いは受講先に確認しておきましょう。
Q. 介護福祉士の受験までに、いつまでに修了すればよいですか?
A. 受験する年度の3月31日までに修了すれば間に合います。社会福祉振興・試験センターの受験の手引では、申し込みの時点で受講中の方は、スクールが発行する修了見込証明書を提出して出願できます。第39回試験の場合は2027年3月31日までに修了する予定の方が対象で、修了後に修了証明書を2027年4月9日までに提出する必要があります。修了できなかった場合は試験が無効になります。第39回の出願受付は2026年7月22日〜9月2日だったので、その時点で受講を始めておく必要があります。日付は回ごとに変わるため、受験する年度の受験の手引で確認してください。
参考資料・出典
- 第4回福祉人材確保対策検討会 参考資料2「介護福祉士資格の取得方法について」(厚生労働省、2014年) https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000052555.pdf
- 実務者研修の受講のための負担軽減策・介護福祉士実務者研修受講資金貸付制度について(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001416219.pdf
- 介護福祉士国家試験 受験資格(実務経験+実務者研修)(社会福祉振興・試験センター) https://www.sssc.or.jp/kaigo/shikaku/k_08.html
- 介護福祉士国家試験 受験資格 実務者研修(社会福祉振興・試験センター) https://www.sssc.or.jp/kaigo/shikaku/k_08_4.html
- 令和8年度 第39回介護福祉士国家試験 受験の手引(社会福祉振興・試験センター、2026年) https://www.sssc.or.jp/kaigo/pdf/pdf_tebiki_39.pdf
- 令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省、2025年) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/24/index.html
- 教育訓練給付制度(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
- 介護福祉士実務者養成施設一覧 令和8年10月1日現在(東京都福祉局、2026年) https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/jitumusya081001-pdf
- ハロートレーニング(公的職業訓練)について(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/hellotraining/about/
- 喀痰吸引等制度について(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/tannokyuuin/index.html
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号、e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
- 訪問介護 新規指定申請について(サービス提供責任者の資格要件)(大阪府) https://www.pref.osaka.lg.jp/o090100/jigyoshido/shien/houmonkaigositei.html














