妊娠が分かってうれしい反面、移乗や入浴介助、夜勤をこのまま続けてよいのか、職場にいつ伝えればよいのか迷う方は少なくありません。
実際には、妊娠中の夜勤の免除や軽い業務への転換、産前産後休業は、労働基準法などで働く女性の権利として定められています。正社員だけでなく、パートや契約社員も対象です。
本記事では、妊娠報告の時期、避けたい介助と配置換えの申し出方、産休・育休の期間と給付金、復帰後の働き方までを整理しました。
妊娠中も介護の仕事を続けたい方、産休・育休の流れを早めに知っておきたい方に向けた内容です。
この記事でわかること
- 妊娠を職場に報告する時期と伝え方
- 配慮を求めたい介助と配置換えを申し出る根拠
- 夜勤免除の求め方と相談先
- 産休・育休の期間と給付金の目安
- 復帰後に使える制度と働き方の選択肢
妊娠報告の時期と伝え方
介護の現場では、妊娠初期から身体介助や夜勤の負担がかかります。シフトや人員配置の組み直しには時間がかかるため、報告が早いほど配慮を受けやすくなります。ここでは報告の時期と相手、準備しておくことを整理します。
報告は医師の確認後、早めに直属の上司へ
報告の時期に決まりはありませんが、医療機関で妊娠を確認できた段階で直属の上司に伝えると、勤務の調整を始めやすくなります。安定期まで職場全体に知らせたくない場合は、共有する範囲を上司と相談しましょう。
相手はシフトを組む立場の上司が適しています。会社は妊娠の申出を受けたら、育児休業などの制度を個別に知らせ、利用の意向を確認しなければなりません(育児・介護休業法第21条)。2025年10月からは、勤務時間帯や業務量などの希望を聴き取り、配慮することも求められています。
伝えるときに準備しておきたいこと
報告の際は、出産予定日、体調で困っていること、続けられそうな業務と避けたい業務を整理しておくと話が進みます。つわりの時期は急な欠勤があり得ることも共有しておくと安心です。産休・育休や復帰の希望も、決まっている範囲で伝えておきましょう。
妊娠中に避けたい介助と配置換えの申し出方
介護職の仕事には、利用者を抱える、中腰で支えるといった負担の大きい動作が多く含まれます。どこまで続けてよいかは妊娠の経過や体調で違うため、自己判断せず、健診のときに主治医や助産師に仕事の内容を伝えて相談しましょう。
負担が大きいとされる業務の例
利用者の体重を支える介助や、前かがみの姿勢が長く続く介助は、妊娠中の体に負担がかかりやすいとされます。介護の現場で当てはまりやすいのは、次のような業務です。
- ベッドから車いすへの移乗など、利用者の体重を支える介助
- 入浴介助(浴室は滑りやすく、高温多湿のなかで中腰の姿勢が続きやすい)
- 体位変換やおむつ交換など、前かがみの姿勢が続く介助
- 利用者の急な立ち上がりや転倒に備える見守りや付き添い
- 夜勤や長時間の立ち仕事
代わりに担いやすいのは、介護記録の作成、食事の声かけ、レクリエーションの進行など、座ってできる業務や軽い介助です。どの業務を外すかは、主治医や助産師の意見を聞いたうえで上司と決めていきましょう。
軽い業務への転換と危険有害業務の制限
妊娠中の女性が請求した場合、会社は他の軽易な業務に転換させなければなりません(労働基準法第65条第3項)。請求の内容は書面やメールで残しておくと確実です。
また、妊産婦(妊娠中と産後1年以内の女性)に重量物を取り扱う業務などの有害な業務をさせることは禁じられています(労働基準法第64条の3)。女性労働基準規則第2条では、満18歳以上の場合、断続作業で30kg以上、継続作業で20kg以上の重量物を扱う業務が対象です。移乗介助がこれに当たるかは状況によるため、負担を感じる介助は軽易業務への転換として申し出るとよいでしょう。
母健連絡カードで医師・助産師の指導を伝える
主治医や助産師から、つわりやむくみなどで仕事について指導を受けたときは、会社はその指導を守れるよう勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置をとる義務があります(男女雇用機会均等法第18条、以前の条番号は第13条)。通勤時間をずらす、休憩を増やす、作業を制限する、休業するといった措置です。
指導内容を正確に伝える書類が、母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)です。主治医や助産師に記入してもらい、会社に提出します。様式は2021年7月に改められ、厚生労働省の女性にやさしい職場づくりナビからダウンロードできます。母子健康手帳に載っている場合もあります。カードがなくても、本人の申出などで指導の内容が分かれば、会社は必要な措置をとらなければなりません。
夜勤免除・時短の制度
介護施設の夜勤は勤務時間が長くなりやすく、少人数で急変に対応する場面もあります。妊娠中の夜勤や残業は、本人が請求すれば免除されます。ここでは勤務時間に関する制度と、職場が応じないときの相談先をまとめます。
夜勤や残業は請求すれば免除される
妊産婦が請求した場合、会社は深夜業(午後10時から午前5時までの勤務)をさせてはなりません(労働基準法第66条第3項)。請求があれば、時間外労働や休日労働、変形労働時間制での1日8時間・週40時間を超える勤務もさせられません(同条第1項・第2項)。
夜勤がなくなると夜勤手当の分だけ収入は下がるため、日勤のみの給与の見込みも確認しておきましょう。
健診の時間確保と勤務時間の調整
会社は、妊婦健診などを受ける時間を確保しなければなりません(男女雇用機会均等法第17条、以前の条番号は第12条)。目安は、妊娠23週までは4週に1回、24〜35週は2週に1回、36週以降は1週に1回です。健診の時間が有給か無給かは会社の規定によります。
会社が一方的に有給休暇を充てさせることはできませんが、本人が希望して使うことはできます。残日数や申請のコツは介護職の有給休暇|付与日数・取り方のコツ・パートの有給と退職時の消化で確認できます。
職場が応じてくれないときの相談先
妊娠や出産、産休の請求を理由とした解雇や雇止め、パートへの一方的な変更などの不利益な扱いは禁じられています(男女雇用機会均等法第9条第3項)。妊娠中と産後1年以内の解雇は、妊娠などが理由ではないと会社が証明しない限り無効です(同条第4項)。
配慮を求めても応じてもらえないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に無料で相談できます。職場の対応に悩んで仕事を続けるか迷っている方は、介護職を辞めたいと感じたら|理由別の対処法と辞め時の判断基準も参考にしてください。
産休・育休の期間と給付金
産前産後休業(産休)は労働基準法、育児休業(育休)は育児・介護休業法に基づく休業です。休業中の収入は、健康保険の出産手当金と雇用保険の育児休業給付金で補われます。期間と給付の目安を確認しましょう。
産前産後休業と出産手当金
産前休業は、出産予定日の6週間前(双子以上は14週間前)から、本人が請求すれば取得できます。産後休業は出産の翌日から8週間で、原則として働けません(産後6週間を過ぎ、本人が請求し医師が認めた業務は可。労働基準法第65条)。産休中とその後30日間は解雇が禁止されています(同法第19条)。
勤務先の健康保険に加入している方には、産休中で給与が出ない日について出産手当金が支給されます。1日あたりの額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2です。出産費用には出産育児一時金があり、2023年4月以降の出産は1児につき50万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関などでは48.8万円)です。出産費用の扱いは見直しが進んでいるため、加入先で確認してください。産休中の健康保険料と厚生年金保険料は、本人負担分と会社負担分のどちらも免除されます。
育児休業と育児休業給付金
育児休業は、原則として子が1歳になるまで取得できます。保育所に入れないなどの事情があれば1歳6か月、さらに2歳まで延長でき、2回まで分けて取ることもできます。
雇用保険に加入している方には育児休業給付金が支給されます。額は休業開始時の賃金日額の67%で、休業開始から181日目以降は50%です。受給には、休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数11日以上(または80時間以上)の月が12か月以上必要です。2025年4月からは、出生直後の一定期間に両親とも14日以上育休を取ると、最大28日間13%が上乗せされます(出生後休業支援給付金)。育休中も社会保険料は免除されます。
産休・育休のスケジュール表
妊娠から復帰までの主な期間と、使える制度を一覧にしました。日数は出産予定日どおりに出産した場合の目安です。
| 時期 | 期間の目安 | 根拠となる制度 | 収入の補い・負担の軽減 |
|---|---|---|---|
| 妊娠中 | 妊娠判明から産前休業まで | 軽易業務への転換、夜勤・残業の免除 | 給与(夜勤手当は減る) |
| 産前休業 | 予定日の6週間前(多胎は14週間前)から出産日まで | 労働基準法第65条(本人の請求) | 出産手当金、社会保険料の免除 |
| 産後休業 | 出産の翌日から8週間 | 労働基準法第65条(就業禁止) | 出産手当金、出産育児一時金、社会保険料の免除 |
| 育児休業 | 産後休業の翌日から子の1歳の誕生日の前日まで | 育児・介護休業法 | 育児休業給付金(180日まで67%、以降50%)、社会保険料の免除 |
| 育休の延長 | 保育所に入れない場合など最長2歳まで | 育児・介護休業法 | 育児休業給付金(50%) |
| 復帰後 | 子が3歳になるまで | 短時間勤務制度 | 2歳未満は育児時短就業給付金(時短中の賃金の原則10%) |
出産が予定日より遅れた場合は、遅れた日数も産前休業と出産手当金の対象です。申請は会社を通すことが多いため、産休前に担当者と書類の流れを確認しましょう。
パートや契約社員の場合
産休は雇用形態にかかわらず取得できます。育休も、期間を定めて雇われている方は子が1歳6か月になるまでに契約が終了することが明らかでなければ対象です(育児・介護休業法第5条)。労使協定で入社1年未満の方などを対象外にしている職場もあるため、就業規則を確認しましょう。
出産手当金は勤務先の健康保険、育児休業給付金は雇用保険への加入が条件のため、勤務時間が短く加入していない場合は対象外になることがあります。雇用形態ごとの待遇の違いは介護職のパートと正社員の違い|給料・待遇・働き方を比較で解説しています。
復帰後の働き方
出産後は、子どもの預け先や家族の協力によって働ける時間帯が大きく変わります。同じ職場に戻る、働き方を変える、子育てしやすい施設へ移るといった選択肢があります。育休中に一度、職場と復帰の条件をすり合わせておきましょう。
同じ職場に戻るときに使える制度
3歳未満の子を育てる方は、1日原則6時間の短時間勤務を利用できます(育児・介護休業法第23条)。小学校に入るまでの子を育てる方は、残業の免除や、深夜業の制限を請求できます(同法第19条など)。2025年10月からは、3歳から小学校入学前の子を育てる方向けに、始業時刻の変更やテレワークなどから2つ以上の措置を設けることが会社の義務になりました。
1歳未満の子を育てる女性は、休憩とは別に1日2回各30分以上の育児時間を請求できます(労働基準法第67条)。子の看護等休暇は、2025年4月から小学3年生の修了まで対象が広がりました。
日勤のみやパートへの切り替え
保育園の送迎がある時期は、夜勤のない日勤のみの勤務や、パートへの切り替えを選ぶ方もいます。パートは時間の融通がきく一方、賞与や社会保険の扱いが変わることがあります。デイサービスのように日中が中心の事業所への異動も選択肢です。休みの多さの比べ方は介護職の年間休日は何日?施設別の平均と求人票の読み方を解説で解説しています。
託児所付きの施設に移るという選択
今の職場で両立が難しい場合は、事業所内保育所がある施設への転職も選択肢の一つです。求人票では託児所の有無に加え、利用できる年齢や時間帯、利用料を確認しましょう。
退職する場合、時期によって出産手当金を受け取れるかが変わり、育児休業給付金は在職して育休を取ることが前提です。加入先の健康保険やハローワークに確認してから時期を決めましょう。伝え方は介護職の円満退職ガイド|退職理由の伝え方・引き止め対処・手続き、施設選びの進め方は介護職の転職で失敗しない方法|施設選び・時期・面接対策の全手順で解説しています。
まとめ
妊娠中の軽い業務への転換、夜勤や残業の免除、健診の時間確保は、本人が求めれば会社が応じる義務のある制度です。報告が早いほど、勤務の調整も早く始められます。
医師や助産師の指導は母健連絡カードで会社に伝えられ、産休・育休中の収入は出産手当金や育児休業給付金で補われます。まずは出産予定日と、続けられそうな業務、避けたい業務を書き出し、上司に相談する日を決めましょう。体調の変化が気になるときは我慢せず、健診の日を待たずに主治医や助産師へ相談してください。
よくある質問
Q. 妊娠中に夜勤は断れますか?
A. 断れます。妊娠中と産後1年以内の女性が請求した場合、会社は午後10時から午前5時までの深夜業をさせてはならないと労働基準法第66条で定められています。残業や休日出勤も、管理監督者にあたる方を除き、請求すれば免除されます。請求は日付を入れた書面やメールで伝えておくと確実です。
Q. 妊娠中に入浴介助は続けてもよいですか?
A. 一律の決まりはなく、妊娠の経過や体調で判断が変わります。浴室は滑りやすく、高温多湿のなかで中腰が続くため、健診のときに主治医や助産師へ仕事の内容を伝えて相談してください。控えるよう指導があれば、母健連絡カードに記入してもらい、配置の変更を求められます。
Q. パートでも育休は取れますか?
A. 取れます。期間を定めて雇われている方も、子が1歳6か月になるまでに契約が終了することが明らかでなければ対象です。労使協定で入社1年未満の方などを除外している職場もあります。育児休業給付金は、雇用保険に加入し休業前2年間に一定の勤務実績があることが条件です。
Q. 妊娠を報告したら退職を勧められました。どうすればよいですか?
A. 妊娠や出産を理由とした解雇や退職の強要などの不利益な扱いは、男女雇用機会均等法で禁じられています。その場で同意せず、言われた内容と日時を記録しておきましょう。職場で解決しないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に無料で相談できます。
参考資料・出典
- 労働基準法第19条・第64条の3・第65条〜第67条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 女性労働基準規則第2条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/361M50002000003
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第9条・第17条・第18条(e-Gov法令検索、2026年10月時点)https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第5条・第19条・第21条・第23条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000076
- 働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku05/01.html
- 女性にやさしい職場づくりナビ 妊娠が分かったら・母性健康管理に関する企業の義務(厚生労働省)https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/ninshin/ninshin.html
- 女性にやさしい職場づくりナビ 産前・産後の休業について(厚生労働省)https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/gimu/kyugyo.html
- 女性にやさしい職場づくりナビ 出産育児一時金(厚生労働省)https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/glossary/provide03.html
- 母健連絡カードについて(厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト)https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/
- 「母性健康管理指導事項連絡カード」が変わりました 令和3年7月1日から(徳島労働局)https://jsite.mhlw.go.jp/tokushima-roudoukyoku/newpage_00608.html
- 出産手当金(全国健康保険協会)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/childbirth/001/index.html
- 厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)(日本年金機構)https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20140122-01.html
- 育児休業等給付について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135090_00001.html
- 育児休業等給付の内容と支給申請手続(厚生労働省、2026年8月1日改訂版)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001461102.pdf
- 育児時短就業給付の内容と支給申請手続(厚生労働省、2026年8月1日時点版)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001395102.pdf
- 育児・介護休業法 改正ポイント(厚生労働省 育児休業制度特設サイト)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/law-amendment/












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