給与明細を見るたびに、ほかの業界より少ないのはなぜだろうと感じる介護職の方は多いはずです。実際には、給料の水準は個人の働きぶりや職場の努力だけで決まるものではなく、介護報酬という国の仕組みが大きく関わっています。この記事では、厚生労働省の統計と審議会資料をもとに、給料が上がりにくい4つの理由、ここ数年で上がった部分、2027年度改定の審議状況、自分で確かめられることを整理しました。給料の低さに納得できず、転職や資格取得を考える前に仕組みを知っておきたい方に向けた内容です。
この記事でわかること
- 介護職員と全産業平均の給料の差(令和7年賃金構造基本統計調査)
- 介護報酬が公定価格であることと、事業所の経営の数字
- 処遇改善加算が基本給より手当や一時金に回りやすい理由
- 2026年6月の期中改定で決まったことと、2027年度改定で審議中のこと
介護職の給料は全産業平均より月8.2万円低い
厚生労働省が2026年4月10日に公表した資料によると、令和7年賃金構造基本統計調査での介護職員の賞与込み給与は31.4万円で、全産業平均(役職者抜き)の39.6万円より8.2万円低い水準です。介護職員の給料も上がっていますが、全産業平均も同じように上がるため、差は大きく縮まっていません。
賃金構造基本統計調査で見る差
賞与込み給与は、調査年の6月分の給与に、前年1年分の賞与の12分の1を加えた額です。全産業平均は、管理職などの役職者を除いた数字です。
| 調査年 | 介護職員 | 全産業平均(役職者抜き) | 差 |
|---|---|---|---|
| 令和6年 | 30.3万円 | 38.6万円 | 8.3万円 |
| 令和7年 | 31.4万円 | 39.6万円 | 8.2万円 |
1年で介護職員は1.1万円、全産業平均は1.0万円増え、差は0.1万円縮まりました。後で触れる介護従事者処遇状況等調査の338,200円とは、対象と定義が違います。
安いというより、上げにくい仕組みがある
全産業平均に届かない背景には、事業所が自らの判断で給料を大きく引き上げにくい仕組みがあります。4つの理由に分けて見ていきます。
理由1 介護報酬は国が決める公定価格
介護サービスの値段は、事業所が自由に決めるものではありません。介護保険法に基づいて国が基準を定める公定価格で、事業所の収入の大部分を占めます。売上の単価が国で決まっていることが、給料の上限を左右する最初の要因です。
サービスの値段を事業所が決められない
介護保険法第41条第4項(居宅サービス)と第48条第2項(施設サービス)は、保険から支払う額を、厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額の100分の90に相当する額としています。残りは利用者の負担で、原則1割、所得により2〜3割です。
報酬は単位数で決められ、1単位の単価は地域とサービスにより10円から11.40円です。訪問介護の身体介護20分以上30分未満は244単位で、どの事業所が提供しても同じ値段です。財源の内訳は介護保険の仕組みをわかりやすく解説|財源・サービス・利用の流れで確認できます。
物価や人件費が上がっても値段に上乗せできない
一般の企業なら、費用が上がれば商品の値段を上げて対応できます。介護事業所は次の改定まで値段を変えられず、改定は原則3年に1度です。その間に光熱費などが上がると、給料に回せる余地が減ります。改定の流れは介護報酬改定をわかりやすく解説|仕組み・2024年度改定・給料への影響にまとめています。
理由2 収入に占める給与費の割合が高く、残る利益が小さい
介護は人が提供するサービスなので、収入のうち給与に使われる割合が高い事業です。厚生労働省の調査では、主なサービスで収入の6割以上が給与費に使われています。残る利益の割合は小さく、昇給の原資を利益から生み出す余地は大きくありません。
収入の6〜7割が給与費
厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査から、令和6年度決算の主なサービスの数字を並べました。収支差率は、収入から支出を引いた額の収入に対する割合です。
| サービス | 収支差率 | 給与費割合 |
|---|---|---|
| 介護老人福祉施設(特養) | 1.4% | 63.5% |
| 介護老人保健施設 | 0.6% | 64.3% |
| 訪問介護 | 9.6% | 67.8% |
| 通所介護 | 6.2% | 60.9% |
| 認知症対応型共同生活介護 | 4.9% | 63.5% |
収支差率は税引前で、物価高騰対策関連補助金を含まない数字です。特養では収入の6割強が給与費に使われ、残る利益は1.4%にとどまります。
全サービス平均の収支差率は4.7%
同じ調査で、全サービス平均の収支差率は令和5年度決算、令和6年度決算ともに4.7%でした。報酬が変わらないまま職員全員の基本給を上げる余裕は、多くの事業所にとって大きくありません。
理由3 処遇改善加算は手当や一時金に回りやすい
給料の低さを補うため、国は介護報酬に賃金改善のための加算を上乗せしてきました。ただし賃金改善の方法は事業所に任されていて、基本給ではなく手当や賞与で支給される分もあり、基本給が伸びにくい一因になっています。
交付金から加算の一本化までの歩み
処遇改善の取り組みは、2009年10月の介護職員処遇改善交付金に始まりました。2012年4月に交付金が介護報酬に組み込まれて処遇改善加算になり、2019年10月に特定処遇改善加算、2022年10月にベースアップ等支援加算が加わりました。2024年6月には3つの加算が介護職員等処遇改善加算に一本化されました。区分ごとの加算率は処遇改善加算とは?介護職の給料にいくら反映されるか仕組みと確認方法で確認できます。
平均給与338,200円の内訳
令和6年度介護従事者処遇状況等調査では、加算を取得する事業所で月給・常勤として働く介護職員の平均給与額は338,200円でした。内訳は基本給192,660円、手当97,980円、一時金の月割り分47,560円で、手当と一時金が4割強を占めます。資格別や施設別の金額は介護職の給料はいくら?平均年収と年収を上げる5つの方法で紹介しています。
基本給に組み込みにくい事情
加算の額は区分や加算率、利用者数で変わり、改定のたびに見直される可能性があります。基本給に組み込むと加算が減ったときに下げにくいため、手当や賞与で配分する事業所もあります。厚生労働省の速報版調査では、令和7年度の賃金改善の方法(複数回答)は次のとおりでした。
- 定期昇給 50.2%
- ベースアップ 42.4%
- 賞与等の引き上げまたは新設 40.6%
- 既存の各種手当の引き上げ 26.6%
ベースアップで対応した事業所は半数に届かず、賞与等で対応した事業所も4割ありました。
理由4 他産業の賃上げに改定が追いつきにくい
介護報酬は、物価や他産業の賃金の動きを見ながら数年ごとに改定されます。改定率は前年の年末に決まるため、その後に世の中の賃上げが急に進むと、介護の賃金は後から追いかける形になります。2025年の春季生活闘争がその例です。
介護報酬改定率の推移
主な改定を並べると、2003年度や2015年度のようなマイナス改定もあり、処遇改善を重視した改定が増えたのは2009年度以降です。
| 改定時期 | 改定率 |
|---|---|
| 2003年度 | −2.3% |
| 2009年度 | +3.0% |
| 2012年度 | +1.2% |
| 2015年度 | −2.27% |
| 2018年度 | +0.54% |
| 2019年10月 | +2.13% |
| 2021年度 | +0.70% |
| 2022年10月 | +1.13% |
| 2024年度 | +1.59%(うち介護職員の処遇改善分+0.98%) |
| 2026年6月 | +2.03%(うち処遇改善分+1.95%) |
2022年10月までは社会保障審議会介護保険部会の資料、2024年度以降は各改定の資料によります。改定率は報酬全体の改定幅で、給料の上がり幅そのものではありません。
春季生活闘争の5.25%と介護のベースアップ目標
2024年度改定では、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップにつながるよう加算率が引き上げられました。一方、2026年4月27日の介護給付費分科会資料によると、連合の2025年春季生活闘争の最終集計では、定期昇給相当込みの賃上げ率が5.25%、賃上げ分が明確に分かる組合の集計では3.70%でした。改定の時点で見込んだ水準を、他産業の賃上げが上回った形です。
それでも上がってきた部分と、これからのこと
上がりにくい仕組みがある一方で、介護職の給料はこの数年で上がってきました。2024年度改定、令和7年度補正予算、2026年6月の期中改定と、賃上げの措置が続いています。上がった部分と、まだ決まっていない部分を分けて押さえておきましょう。
2025年7月までに基本給等は6,130円増加
厚生労働省の速報版調査では、加算を取得する事業所の介護職員(月給・常勤)の基本給等は、2024年9月の245,980円から2025年7月の252,110円へ6,130円(2.5%)増えました。基本給等には、毎月決まって支払われる手当が含まれます。
補正予算の支援と2026年6月の期中改定
令和7年度補正予算の支援事業では、2025年12月を基準月に、介護職員は最大月1.9万円相当、介護職員以外も月1.0万円相当を6か月分、事業所に補助しました。続く2026年6月の期中改定は改定率+2.03%、うち処遇改善分+1.95%で、施行済みです。介護従事者に幅広く月1.0万円、生産性向上や協働化に取り組む事業所の介護職員にはさらに月0.7万円の賃上げを見込み、定期昇給分0.2万円を含めて介護職員は最大月1.9万円という設計です。加算の区分はⅠイ、Ⅰロ、Ⅱイ、Ⅱロ、Ⅲ、Ⅳの6つになり、対象は介護職員から介護従事者へ広がりました。
2027年度改定は審議中
2027年度改定は、社会保障審議会介護給付費分科会が2026年4月27日に議論を始め、サービスごとの検討が続いています。2025年12月の大臣折衝事項では物価や賃金の上昇を適切に反映するとされましたが、改定率と施行時期は2026年11月時点で決まっていません。
介護職が自分で確かめられること
仕組みそのものは個人では変えられませんが、同じ制度の中でも職場や働き方で給料には差が出ます。処遇改善加算の区分と配分、資格、賞与の3つは、給与明細と求人票で確かめられる部分です。まずは自分の給料がどう決まっているかを見てみましょう。
職場の加算区分と配分の方法を確かめる
処遇改善加算は、取得している区分で事業所に入る額が変わり、配分の方法は事業所が決めます。給与明細で処遇改善手当などの項目を探し、見当たらなければ事務担当者に加算区分と、2026年6月の拡充分を含む支給方法を尋ねてみてください。
資格や夜勤、勤め先で変わる部分を知る
令和6年度介護従事者処遇状況等調査では、介護福祉士の資格を持つ介護職員の平均給与額は350,050円で、保有資格なしの290,620円より月59,430円高い水準です。資格や施設による差は介護福祉士の給料はいくら?平均年収・手取り・施設別の違いを解説で取り上げています。
賞与を含めて年収で比べる
加算の一部を賞与で支給する職場もあるため、月給だけでは職場の差が見えにくくなります。求人票では賞与の前年度実績を確かめ、年収で比べましょう。賞与の平均は介護職のボーナスは平均いくら?年間賞与と何か月分かを統計で確認にまとめています。
まとめ
介護職の給料は、令和7年の賃金構造基本統計調査で全産業平均より月8.2万円低い水準です。報酬が国の決める公定価格で収入に上限があること、給与費の割合が高く利益が小さいこと、加算が手当や一時金に回りやすいこと、改定が他産業の賃上げに遅れやすいことが主な理由です。次の給与明細で、職場の加算区分と配分の方法を確かめてみてください。
よくある質問
Q. 介護職の給料はこれから上がりますか?
A. 2026年6月の期中改定で処遇改善加算が拡充され、介護職員は定期昇給分を含め最大月1.9万円の賃上げを見込んだ措置がとられました。2027年度改定は介護給付費分科会で審議中で、2026年11月時点で改定率は決まっていません。
Q. 介護報酬が上がれば、その分すべて給料に回りますか?
A. 基本報酬の増収分を人件費と物価高への対応などにどう振り分けるかは、事業所の経営判断です。一方、処遇改善加算は加算額に相当する賃金改善を職員に行うことが要件です。給料への反映を見るときは、処遇改善分と職場の配分を確かめるのが近道です。
Q. 処遇改善加算はなぜ基本給ではなく手当で支給されるのですか?
A. 加算の額は区分や利用者数で変わり、改定ごとに見直される可能性があるため、基本給に組み込まず手当や賞与で配分する事業所があります。厚生労働省の速報版調査では、令和7年度の賃金改善でベースアップを行った事業所は42.4%でした。
Q. 同じ介護職でも職場によって給料が違うのはなぜですか?
A. サービスの種類や地域で報酬の単価が違い、処遇改善加算の区分や配分の方法も事業所ごとに異なるためです。夜勤や資格手当の基準も法人で変わります。比べるときは、手当の内訳と賞与の実績を含めた年収で見ましょう。
参考資料・出典
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第41条・第48条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 賃金構造基本統計調査による介護職員の賃金について(厚生労働省、2026年4月10日) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001685519.pdf
- 介護分野の最近の動向(第256回社会保障審議会介護給付費分科会 資料3、2026年4月27日) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001713329.pdf
- 令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)(社会保障審議会介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会 第42回 資料1、2025年11月26日) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001599503.pdf
- 令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省、2025年) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/24/index.html
- 介護職員等の職場環境や処遇に関する実態調査結果のポイント(速報版)(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001594198.pdf
- 令和8年度介護報酬改定の概要(厚生労働省老健局) https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675936.pdf
- 介護保険最新情報Vol.1467 介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業に係る広報資材等について(厚生労働省老健局、2026年2月4日) https://www.mhlw.go.jp/content/001651943.pdf
- 給付と負担について(参考資料)(社会保障審議会介護保険部会 第107回 参考資料2、2023年7月10日) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001119101.pdf
- 社会保障審議会(介護給付費分科会)(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126698_00022.html
制度の内容は、2026年11月5日時点で確認した厚生労働省の資料に基づいています。













