辞めた職場の利用者の話を、転職先や家族の前でしてよいのか。家族だと名乗る人から電話で様子を聞かれたとき、どこまで答えてよいのか。現場ではこうした場面で手が止まりがちです。
介護職の守秘義務は3つの根拠で決まり、資格の有無で当てはまる条文も変わるため、全体像がつかみにくくなっています。
この記事では、条文と個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスをもとに、守秘義務の範囲、退職後も続く理由、違反したときの罰則、電話と連絡先交換への対応を整理しました。
現場で働く介護職の方と、介護福祉士試験に向けて条文を確認したい方に向けた内容です。
この記事でわかること
- 介護職の守秘義務を定める3つの根拠と、資格の有無による違い
- 守秘義務が退職後も続く理由と、転職先で気をつけたいこと
- 違反したときの刑事罰・登録の取消し・懲戒処分
- 家族と名乗る電話への答え方と、利用者と連絡先を交換しない理由
- 試験で押さえたい条文の番号
介護職の守秘義務は3つの根拠で決まる
介護職の守秘義務は、介護福祉士本人に課される資格法、介護保険サービスの運営基準、事業所が負う個人情報保護法の3つが重なってできています。資格がない職員にも運営基準を通じて守秘義務があり、どの根拠が自分に当てはまるかを知っておくと、迷ったときの判断がしやすくなります。
介護福祉士は社会福祉士及び介護福祉士法46条
社会福祉士及び介護福祉士法46条は、介護福祉士は正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならないと定めています。後段には、介護福祉士でなくなった後においても同様とする、という一文があります。以下、この法律の条文は条番号だけで書きます。
資格がなくても運営基準で守秘義務がある
無資格の職員に46条は当てはまりませんが、介護保険サービスの運営基準が従業者全員に秘密保持を求めています。訪問介護では、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準33条1項が、従業者は正当な理由なく業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らしてはならないと定めています。
特別養護老人ホームの基準30条1項も、入所者又はその家族の秘密について同じ内容です。ケアマネジャーには、介護保険法69条の37が介護支援専門員本人の秘密保持義務を定めています。
事業所は個人情報保護法の義務を負う
個人情報保護法の義務を直接負うのは事業所です。個人情報保護委員会と厚生労働省のQ&A(事例集)総論Q2-8は、取り扱う個人情報の数にかかわらず、原則として全ての事業者が同法の対象になると説明しています。同法27条は、本人の同意を得ない個人データの第三者提供を原則として禁じています。
| 根拠 | 主に当てはまる人 |
|---|---|
| 社会福祉士及び介護福祉士法46条 | 介護福祉士 |
| 介護保険法69条の37 | 介護支援専門員 |
| 運営基準(居宅基準33条、特養基準30条など) | 事業所の従業者全員 |
| 個人情報保護法 | 事業所(従業者を監督) |
守秘義務の範囲はどこまでか
守秘義務の対象は利用者本人の情報だけでなく、家族の事情や自宅で目にしたことにも及びます。一方で、ケアのための職員間の共有まで禁じられているわけではなく、線引きは正当な理由があるかどうかです。ここでは条文とQ&A(事例集)をもとに、対象になる情報と、共有が認められる場面を分けて見ていきます。
家族の情報や見聞きしたことも入る
46条は「人の秘密」と書いており、利用者本人に限っていません。運営基準も、利用者又はその家族の秘密と明記しています。家族の仕事や家計の事情、家の中の様子、利用者が話した身の上話なども、業務を通じて知ったものであれば対象になると考えておくのが安全です。
要配慮個人情報は特に慎重に扱う
個人情報保護法2条3項は、病歴や障害の事実など、不当な差別や偏見が生じないよう特に配慮が必要な情報を要配慮個人情報と定めています。Q&A(事例集)総論Q2-4は、介護関係記録に書かれた病歴や障害の事実をその例に挙げています。用語の意味は介護用語一覧でも確認できます。
ケアのための共有は正当な理由になる
チームで支援する介護では、職員同士の申し送りや記録での共有は欠かせず、守秘義務の違反にはなりません。一方、居宅基準33条3項は、サービス担当者会議などで利用者や家族の個人情報を使うときは、あらかじめ文書で同意を得ておくよう事業者に求めています。共有の仕方は申し送りのコツと介護記録の書き方で取り上げています。
退職後も守秘義務が続く理由
職場を辞めても、在職中に知った秘密を話してよいことにはなりません。資格法、介護保険法、運営基準のいずれにも退職後の扱いが書かれており、事業所が退職者に守秘義務を課す根拠にもなっています。条文の後段と「従業者であった者」という言葉が、その手がかりです。
46条と69条の37の後段
46条の後段は介護福祉士でなくなった後においても、介護保険法69条の37の後段は介護支援専門員でなくなった後においても、同様とすると定めています。介護の仕事を離れても義務は残り、条文に年数の区切りもありません。
運営基準の「従業者であった者」と誓約書
居宅基準33条2項と特養基準30条2項は、従業者であった者が秘密を漏らさないよう必要な措置を講じることを事業所に義務づけています。ガイダンスも、雇用契約や就業規則で、就業期間中はもとより離職後も含めた守秘義務を課すよう求めています。入職時や退職時に秘密保持の誓約書を交わすのはこのためです。
転職先での会話と記録の持ち出し
転職先で前の職場の利用者の様子を話したり、元同僚と人の多い場所で利用者の話をしたりすることも、相手が特定できれば漏えいになりえます。記録やメモ、利用者の一覧を持ち出すのは、さらに重い問題です。個人情報保護法179条は、従業者であった者が業務で扱った個人情報データベース等を不正な利益を図る目的で提供したり盗用したりした場合、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。
違反したときの罰則と処分
守秘義務に違反すると、介護福祉士であれば刑事罰と登録の取消しの対象になり、資格の有無にかかわらず懲戒処分や損害賠償を求められる可能性があります。刑事罰と登録の取消しは根拠になる条文が分かれているので、順に確認します。
50条の刑事罰は親告罪
介護福祉士が46条に違反した場合、50条1項により1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象になります。2025年6月1日施行の刑法改正で、以前の「懲役」は「拘禁刑」に改められました。50条2項により、告訴がなければ公訴を提起できない親告罪です。
登録の取消しと名称の使用停止
刑事罰とは別に、厚生労働大臣は45条や46条に違反した介護福祉士の登録を取り消すか、期間を定めて介護福祉士の名称の使用停止を命ずることができます。これは32条2項を42条2項で介護福祉士に準用する仕組みです。
懲戒処分と民事上の責任
就業規則に秘密保持の定めがあれば、違反は懲戒処分の対象になりえます。Q&A(事例集)総論Q6-2は、介護関係事業者の従業者は介護保険関係法令の守秘義務違反に問われる可能性があり、権利を侵害された人から民事上の責任を問われる可能性もあると説明しています。
家族と名乗る電話にどう答えるか
電話では相手が本当に家族かどうかを確かめにくいものです。善意で答えたことが漏えいにつながらないよう、事業所の決まりに沿って対応するのが基本になります。入所や利用の有無も個人情報に当たることと、同意なしに答えられる例外がごく限られていることを押さえておきましょう。
入所や利用の有無も個人情報
Q&A(事例集)各論Q3-11は、入所者の知り合いと名乗る人が面会に来た場面の事例ですが、利用者の氏名は個人情報にあたり、入所の有無を含めた問い合わせに答えることは問題となる可能性があるとしています。また、職員によって対応が違わないよう統一的な取扱いを定め、本人に問い合わせへ答えてよいか確認しておくことが望ましいとも示しています。電話での問い合わせも同じ考え方で扱うのが安全です。
その場で答えず事業所の決まりで折り返す
ガイダンスは、病状などを家族等に説明する場合は、あらかじめ本人に説明する相手を確認し、同意を得ておくことが望ましいとしています。電話を受けた職員は、相手の名前と用件を聞き取り、記録にある連絡先や登録された家族かどうかを確かめたうえで、責任者や担当者から折り返すといった手順が考えられます。
本人の同意なしに答えられる例外
個人情報保護法27条1項2号は、人の生命、身体又は財産の保護のために必要があり、本人の同意を得ることが困難なときは、同意なく第三者に提供できると定めています。Q&A(事例集)各論Q4-1も、本人の同意を得られない場合でも、本人や家族等の生命、身体又は財産の保護のために必要なときは家族等への説明が可能としています。
個人情報保護委員会のFAQ Q4-17は、大規模災害や事故で意識不明の患者が搬送され、家族と称する人から電話があった場面について、存否情報を回答できうるとしています。これは災害や事故という限られた場面の事例で、普段の電話に広く当てはめられるものではありません。例外に当たるかの判断は責任者に委ねましょう。
利用者や家族と個人的に連絡先を交換しない理由
利用者や家族から、個人のLINEや電話番号を聞かれることがあります。親しくなった相手の頼みは断りにくいものですが、就業規則などで個人的な連絡を禁じている事業所は少なくありません。法律で直接禁じる条文がないからこそ、何を根拠に断るのかを知っておくと説明しやすくなります。
法律で直接禁じる条文はない
利用者や家族と個人的に連絡先を交換することを、直接禁じる法律の条文はありません。禁止の根拠になるのは、事業所の就業規則や個人情報の規程と、これまで見てきた守秘義務です。
根拠は就業規則と守秘義務
個人の端末でやり取りをすると、利用者の情報が事業所の管理の外に残り、誤送信や端末の紛失で漏えいにつながります。事業所も個人情報保護法24条が求める従業者の監督を果たせなくなります。利用者や家族からの連絡は事業所の電話や窓口で受け、私的な連絡を求められたら「職場の決まりで個人の連絡先はお伝えできません」と伝えるのが穏当です。
退職後の連絡とSNSへの投稿
退職のあいさつを機に個人的に連絡を取ることも、在職中と同じ問題を抱えます。SNSへの投稿については介護職のSNS投稿はどこからアウト?で、写真や愚痴、退職後の投稿に分けて整理しています。
試験で押さえたい条文
介護福祉士試験の勉強では、守秘義務を社会福祉士及び介護福祉士法のほかの義務規定とあわせて整理しておくと覚えやすくなります。第39回試験は2027年1月31日に行われる予定で、試験全体の流れは介護福祉士の試験ガイドにまとめています。
義務規定と罰則の条文番号
介護福祉士の義務規定は44条の2から47条の2までにまとまっており、名称の使用制限が48条、守秘義務違反の罰則が50条です。下の表で条番号と内容を対応させておきましょう。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 44条の2 | 誠実義務 |
| 45条 | 信用失墜行為の禁止 |
| 46条 | 秘密保持義務(介護福祉士でなくなった後も同様) |
| 47条2項 | 福祉サービス関係者等との連携 |
| 47条の2 | 資質向上の責務 |
| 48条2項 | 介護福祉士でない者の名称使用の禁止 |
| 50条 | 46条違反は1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、告訴が必要 |
取り違えやすいポイント
2025年6月より前に作られた教材では「懲役」と書かれていることがあるため、現行条文の「拘禁刑」とあわせて確認しておきましょう。
まとめ
介護職の守秘義務は3つの根拠で決まり、資格がない職員にも当てはまります。押さえておきたい点は次のとおりです。
- 46条と運営基準により、守秘義務は退職後も期限なく続く
- 介護福祉士の違反は1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(親告罪)と、登録の取消しの対象になる
- 家族と名乗る電話には、その場で答えず事業所の決まりに沿って折り返す
- 利用者や家族との個人的な連絡先交換は、就業規則と守秘義務を根拠に断る
迷ったときは、勤め先の個人情報の担当者や上司に確認しましょう。
よくある質問
Q. 介護福祉士の資格がなくても守秘義務はありますか?
A. あります。46条は介護福祉士に課されるものですが、介護保険サービスの運営基準が、資格の有無にかかわらず従業者全員に利用者や家族の秘密を漏らさないよう求めています。
Q. 退職して何年たてば前の職場の話をしてもよいですか?
A. 期限はありません。46条は介護福祉士でなくなった後も同様と定め、運営基準も従業者であった者を対象にしています。年数ではなく、利用者や家族が特定できる内容かどうかで考えましょう。
Q. 家族からの電話で「入所していますか」とだけ聞かれたら答えてよいですか?
A. Q&A(事例集)各論Q3-11は、入所の有無を含む問い合わせに答えることは問題となる可能性があるとしています。答えてよいかは本人の意向と事業所の決まり次第なので、その場では答えず、相手の名前と連絡先を聞いて責任者から折り返すのが無難です。
Q. 利用者の家族からLINEを交換したいと言われたらどうすればよいですか?
A. 個人の連絡先の交換を直接禁じる法律はありませんが、就業規則などで私的な連絡を禁じている事業所があり、守秘義務の面でも避けたほうが安全です。職場の決まりで個人の連絡先は伝えられないことを説明し、連絡は事業所の電話や窓口で受けると伝えましょう。
Q. 守秘義務について迷ったときの相談先はありますか?
A. まずは勤め先の個人情報の担当者や上司に相談しましょう。法律の解釈については、個人情報保護委員会の個人情報保護法相談ダイヤル(03-6457-9849)で相談できます。受付は9時30分から17時30分で、土日祝日と年末年始は休みです(2026年11月時点)。
参考資料・出典
- 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)第32条・第42条・第44条の2〜第48条・第50条(e-Gov法令検索、2026年11月時点の現行条文)https://laws.e-gov.go.jp/law/362AC0000000030
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第69条の37(e-Gov法令検索、2026年11月時点の現行条文)https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条・第24条・第27条・第179条(e-Gov法令検索、2026年11月時点の現行条文)https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第33条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第30条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039
- 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省、平成29年4月、令和8年4月一部改正)https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
- 「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)総論Q2-4・Q2-8・Q6-2、各論Q3-11・Q4-1(個人情報保護委員会・厚生労働省、平成29年5月、令和8年4月一部改正)https://www.mhlw.go.jp/content/001685013.pdf
- 個人情報保護委員会 FAQ Q4-17(医療・介護関係事業者ガイダンス各論、個人データの第三者提供)https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq3-qb4-17/
- 個人情報保護法相談ダイヤル(個人情報保護委員会)https://www.ppc.go.jp/personalinfo/pipldial/













