虐待防止、BCP、身体拘束と、職場では次々に研修の案内が届きます。どれが義務で年に何回なのか、はっきりしないまま参加している方もいるでしょう。研修の義務はサービスの種類ごとに省令で定められ、回数は解釈通知で示されているため、施設とデイサービス、訪問介護で中身が違います。この記事では、条番号つきの研修一覧、2024年度から義務になった研修、時間外研修の給料、研修記録の残し方をまとめました。現場の介護職の方と、研修計画を任された主任・リーダーの方に向けた内容です。
この記事でわかること
- 法定研修の根拠と、年何回かが書かれている資料
- 施設系・通所系・訪問系ごとの研修の一覧と回数
- 2024年度から義務になった虐待防止・BCP・認知症介護基礎研修
- 勤務時間外の研修に給料が出るかの考え方と相談先
- 研修記録に残す項目と年間計画の立て方
介護職員の法定研修とは
法定研修は正式な用語ではなく、介護サービスの運営基準で実施が義務づけられた研修の通称です。運営基準は厚生労働省令で、サービスの種類ごとにあります。義務を負うのは事業所で、職員は研修を業務として受ける立場です。
運営基準で事業所に義務づけられた研修
運営基準には、虐待の防止や業務継続計画(BCP)などの項目ごとに、従業者への研修を定期的に実施することが書かれています。特別養護老人ホーム(特養)は平成11年厚生省令第39号、訪問介護やデイサービスは第37号が基準で、資質向上のための研修の機会を確保する義務もあります。
年何回かは解釈通知に書かれている
省令は定期的に実施するという書き方で、回数までは書かれていません。年2回以上、年1回以上といった回数は、省令の運用を示した解釈通知に記載されています。施設系は年2回以上、デイサービスや訪問介護は年1回以上とされる研修が多くなっています。
加算の要件になっている研修との違い
運営基準とは別に、加算を取るための要件として研修が求められる場合もあります。介護職員等処遇改善加算は、どの区分でも研修の実施が要件です。加算を算定する事業所の要件で、全事業所の義務ではありません。加算の仕組みは処遇改善加算とは?介護職の給料にいくら反映されるか仕組みと確認方法で解説しています。
サービス種別ごとの法定研修一覧
施設系・通所系・訪問系の代表として、特養、デイサービス(通所介護)、訪問介護の基準を取り上げます。表には省令の条番号と施行年度を一次資料で確認できた研修だけを載せ、回数は2026年10月時点の解釈通知の記載です。
施設系(特養・短期入所生活介護)の研修と回数
特養は虐待防止やBCPの研修が年2回以上で、通所系・訪問系より回数が多くなっています。根拠は特養が平成11年厚生省令第39号、短期入所生活介護が第37号で、ユニット型の特養にも同じ内容の規定があります。
| 研修名 | 対象サービス | 回数(解釈通知) | 根拠(省令) | 施行年度 |
|---|---|---|---|---|
| 虐待の防止のための研修 | 特養 | 年2回以上と新規採用時 | 第35条の2第3号 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 業務継続計画(BCP)の研修・訓練 | 特養 | 研修・訓練とも年2回以上、新規採用時にも研修 | 第24条の2第2項 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 身体的拘束等の適正化のための研修 | 特養 | 年2回以上と新規採用時 | 第11条第6項第3号 | 2018年度 |
| 認知症介護基礎研修(無資格者) | 特養 | 採用後1年以内に受講 | 第24条第3項 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 身体的拘束等の適正化のための研修 | 短期入所生活介護 | 年2回以上と新規採用時 | 第128条第6項第3号 | 2024年度新設、2025年度から義務 |
2024年度から義務とあるのは、2021年度の改正時の経過措置が2024年3月31日で終わったという意味です。短期入所生活介護の身体拘束の研修は、経過措置が2025年3月31日まででした。
通所系(デイサービス)の研修と回数
デイサービスは、平成11年厚生省令第37号の通所介護の規定と、訪問介護の規定を準用する第105条が根拠です。回数は年1回以上が基本で、虐待防止の研修は新規採用時にも行うことが重要とされています。
| 研修名 | 対象サービス | 回数(解釈通知) | 根拠(省令) | 施行年度 |
|---|---|---|---|---|
| 虐待の防止のための研修 | 通所介護 | 年1回以上と新規採用時 | 第105条で準用する第37条の2第3号 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 業務継続計画(BCP)の研修・訓練 | 通所介護 | 研修・訓練とも年1回以上 | 第105条で準用する第30条の2第2項 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 感染症の予防及びまん延の防止のための研修・訓練 | 通所介護 | 研修・訓練とも年1回以上 | 第104条第2項第3号 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 認知症介護基礎研修(無資格者) | 通所介護 | 採用後1年以内に受講 | 第101条第3項 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
訪問系(訪問介護)の研修と回数
訪問介護も回数は年1回以上が基本です。感染症とBCPの研修・訓練は、登録ヘルパー(登録訪問介護員)も含めて行うと解釈通知に書かれています。
| 研修名 | 対象サービス | 回数(解釈通知) | 根拠(省令) | 施行年度 |
|---|---|---|---|---|
| 虐待の防止のための研修 | 訪問介護 | 年1回以上と新規採用時 | 第37条の2第3号 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 業務継続計画(BCP)の研修・訓練 | 訪問介護 | 研修・訓練とも年1回以上 | 第30条の2第2項 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
| 感染症の予防及びまん延の防止のための研修・訓練 | 訪問介護 | 研修・訓練とも年1回以上 | 第31条第3項第3号 | 2021年度新設、2024年度から義務 |
訪問介護は、訪問介護員に資格が必要なため、認知症介護基礎研修の義務づけの対象から外れています。
表に載せていない研修
特養には、感染症・食中毒の予防の研修(年2回以上、第27条第2項第3号)と事故発生の防止の研修(第35条第1項第3号)もあります。事故の記録は介護の事故報告書の書き方|記載項目・記入例・ヒヤリハットとの違いで解説しています。
老健やグループホームなどにも、それぞれの省令に同様の規定があります。BCPや身体拘束といった用語は介護用語一覧|現場で使う専門用語・略語を分野別にわかりやすく解説で確認できます。
2024年度から義務になった虐待防止とBCPの研修
虐待防止とBCPの研修は2021年4月の改正(令和3年厚生労働省令第9号)で新設され、附則の経過措置により2024年3月31日までは努力義務でした。2024年4月からは介護サービス事業所の義務で、措置がない場合の減算も同じ年度に始まりました。
虐待防止の研修と担当者
虐待の防止のために事業所が講じる措置は、委員会の定期的な開催、指針の整備、研修の定期的な実施、担当者の配置の4つです。担当者は、虐待防止検討委員会の責任者と同じ職員が務めることが望ましいとされています。
BCP(業務継続計画)の研修と訓練
BCPは、感染症や災害が起きてもサービスを続け、早く業務を再開するための計画です。研修で計画の内容を共有し、訓練で役割分担などをシミュレーションします。訓練は机上を含めて方法を問わず、机上と実地の組み合わせが適切とされています。厚生労働省はBCP作成支援の研修資料と動画を公開しています。
措置がないと報酬が減算される
2024年度の介護報酬改定では、2つの減算が新設されました。高齢者虐待防止措置未実施減算は、委員会・指針・研修・担当者の措置がない場合に所定単位数の100分の1を減算します。業務継続計画未策定減算は、BCPを策定していない場合に、施設・居住系サービスは100分の3、その他のサービスは100分の1を減算します。
無資格の職員が受ける認知症介護基礎研修
認知症介護基礎研修は、介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を持たない人に受講させることを事業所に義務づけた研修です。2021年度に新設され、経過措置は2024年3月31日で終わりました。受講するのは職員本人ですが、受講させる措置の義務は事業所にあります。
対象になる人と免除される資格
解釈通知では、看護師、准看護師、介護福祉士、介護支援専門員、実務者研修・介護職員初任者研修・生活援助従事者研修の修了者、社会福祉士、理学療法士、栄養士などが対象外とされています。初任者研修を修了すると対象から外れるので、資格取得を考えている方は介護職員初任者研修とは|費用・期間・取得後の給料差を解説もあわせて読んでみてください。
採用から1年以内に受講
厚生労働省の令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.14、2025年4月18日)では、経過措置は終了したうえで、新たに採用した無資格の職員には採用後1年間の猶予期間があると示されています。
受講方法
受講には、認知症介護研究・研修仙台センターのeラーニングシステムが使われています。京都府の案内では、標準カリキュラムは150分程度で、受講者本人が所属事業所の事業所コードを使って申し込みます。受講料や申込窓口は都道府県ごとに決まっているので、職場に確認してください。
研修が勤務時間外なら給料は出るのか
法定研修が勤務時間外に組まれ、給料が出ないこともあります。判断の基準は、その時間が使用者の指揮命令下にあったかどうかです。法定研修は事業所に実施が義務づけられた研修なので、参加を指示されれば業務として受けることになります。
参加が義務の研修は労働時間
最高裁判所は2000年3月9日の判決(三菱重工業長崎造船所事件)で、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間で、就業規則などの定めではなく客観的に決まると判断しました。厚生労働省の労働時間の適正な把握のためのガイドライン(2017年1月20日策定)も、参加が業務上義務づけられている研修の受講時間は労働時間に当たると明記しています。1日8時間などの法定労働時間を超えれば、労働基準法第37条の割増賃金の対象にもなります。
自由参加の研修との境目
業務上義務づけられていない自由参加の研修は、一般に労働時間に当たらないとされます。境目は、参加が業務上義務づけられているか、使用者から参加の指示があるかといった点です。ガイドラインでは、使用者の指示で業務に必要な学習をした時間も労働時間とされています。自宅でのeラーニングや動画視聴を指示された場合も、同じ考え方が当てはまります。
支払われないときの相談先
まずは研修の案内文や参加の指示、受講日時を記録に残しておきましょう。職場で解決しないときは、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談できます。窓口の使い方は介護職の有給休暇|付与日数・取り方のコツ・パートの有給と退職時の消化でも紹介しています。勤務時間や休日の決まり方は介護職の年間休日は何日?施設別の平均と求人票の読み方を解説が参考になります。
研修記録の残し方と年間計画
解釈通知は、虐待防止や感染症などの研修の実施内容を記録するよう求めています。運営指導などで実施を示せるのも、この記録です。回数が足りているかや、新規採用者に研修をしたかも、記録がなければ示せません。
記録に残す項目
最低限残したいのは、実施日時、研修名、参加者と欠席者、講師、研修の内容、使った資料です。欠席者に後日どう伝えたかや、新規採用者の採用日と受講日も並べておくと、全職員への実施を示しやすくなります。
年間計画を立てるときの考え方
年2回以上の研修が多い施設では、上期と下期に同じテーマを組むと回数の不足を防げます。感染症のBCPは感染症予防の研修・訓練と、災害のBCPの訓練は非常災害対策の訓練と、一体的に実施できます。無資格の新人がいる場合は、認知症介護基礎研修の受講期限を計画表に入れておきましょう。
まとめ
法定研修は、運営基準の省令で事業所に実施が義務づけられた研修です。施設系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上が基本です。虐待防止、BCP、通所系・訪問系の感染症対策、認知症介護基礎研修は2024年4月から義務になりました。参加が義務の研修は労働時間に当たるので、時間外に受けて給料が出ないときは記録を残して相談しましょう。
よくある質問
Q. 介護福祉士でも法定研修を受ける必要がありますか?
A. はい。資格で免除されるのは認知症介護基礎研修だけです。虐待防止、BCP、感染症、身体拘束の研修は、資格の有無にかかわらず従業者に対して行うものとされています。
Q. パートや登録ヘルパーも研修の対象ですか?
A. 対象です。省令は従業者や訪問介護員等への研修を定めており、訪問介護の感染症の研修は登録訪問介護員を含めて行うと解釈通知にあります。BCPの研修・訓練も、登録訪問介護員等を含めて実施するとされています。
Q. 動画視聴や事業所内の研修でもよいのですか?
A. 解釈通知では、虐待防止や身体拘束の研修は施設内で行って差し支えないとされ、感染症の研修では厚生労働省の研修教材の活用も示されています。外部研修に行かなくても実施できます。
Q. 認知症介護基礎研修の受講料は誰が払いますか?
A. 省令は事業所に受講させるための措置を義務づけていますが、受講料の負担者までは定めていません。事業所負担か本人負担かは職場に確認してください。受講を指示されて勤務時間外に受けた場合、その時間は労働時間に当たると考えられます。
参考資料・出典
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号、e-Gov法令検索、2025年4月1日施行時点)https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号、e-Gov法令検索、2025年4月1日施行時点。令和3年厚生労働省令第9号附則・令和6年厚生労働省令第16号附則を含む)https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について(老企第43号)新旧対照表(厚生労働省、2021年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000772408.pdf
- 指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(老企第25号)新旧対照表(厚生労働省、2021年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000772386.pdf
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について 新旧対照表(厚生労働省、2024年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001227943.pdf
- 指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について 新旧対照表(厚生労働省、2024年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001227935.pdf
- 令和6年度介護報酬改定の主な事項について(社会保障審議会介護給付費分科会 第239回 資料1、2024年1月22日)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf
- 令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.14)(厚生労働省老健局、2025年4月18日)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001478559.pdf
- 認知症介護基礎研修について(京都府)https://www.pref.kyoto.jp/kaigo/ninntisyoukaigokisokensyuu.html
- 認知症介護基礎研修eラーニングシステム(認知症介護研究・研修仙台センター)https://kiso-elearning.jp/
- 介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 主なポイント(厚生労働省、2017年1月20日策定)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf
- 最高裁判所第一小法廷 平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)判決文(裁判所)https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52572.pdf
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html










