介護職の労災申請の手続き|利用者からのけが・カスハラも対象

労災申請の書類に記入する介護職員
公開日 執筆 介護ワーカーズナビ編集部

移乗の途中で転んだ、利用者に強くたたかれた、暴言が続いて出勤できなくなった。そんなとき気になるのが、労災になるのか、手続きは誰が進めるのかという点です。

実際には、施設が「労災にするほどではない」と手続きを渋ったり、請求書の事業主証明を書いてくれなかったりすることもあります。けれども労災保険を請求するのは働く本人で、証明がそろわなくても請求書は受理されます。

この記事では、労災の対象になる場面の整理、様式と提出先、施設が協力しないときの進め方、給付の時効と不服申立てまでを、手続きに絞ってまとめました。

けがや利用者からの迷惑行為で働けなくなった介護職の方、同僚の手続きを手伝う方に向けた内容です。

この記事でわかること

  • 介護職のけがや利用者からの暴力、カスハラが労災の対象になる仕組み
  • 様式第5号・第7号・第8号の使い分けと提出先
  • 施設が証明してくれないときの進め方と労災隠しの扱い
  • 給付の種類と時効、不支給に納得できないときの審査請求

介護職が労災保険を使える場面

労災保険は、仕事や通勤が原因のけがや病気に対して、治療費や休業中の収入を補償する国の保険です。厚生労働省がまとめた令和6年の労働災害発生状況では、休業4日以上の死傷災害に占める第三次産業の割合が52%に達し、なかでも社会福祉施設の増加が著しいとされています。

パートや派遣も対象で、保険料は事業主が負担

労災保険は、労働者を1人でも使用する事業が適用事業になります(労働者災害補償保険法第3条)。厚生労働省の労災保険に関するQ&Aでは、パートやアルバイトも労災保険給付を受けられ、給付内容は正規雇用者と同じとされています。

保険料は全額を事業主が負担するため、給与から天引きされることはありません。派遣で働く介護職は、派遣元の会社の労災保険を使います。

業務災害と通勤災害の違い

労災保険は、仕事中のけがや病気である業務災害と、通勤中のけがである通勤災害を対象にしています(同法第7条)。通勤とは、住まいと職場の間を合理的な経路と方法で移動することを指し、夜勤明けの帰宅途中の事故も通勤災害として扱われます。夜勤の勤務形態については介護職の夜勤の仕事内容にまとめています。

なお健康保険は業務災害を対象外としているため(健康保険法第1条)、仕事中のけがの治療に保険証は使いません。

利用者からの暴力によるけがは第三者行為災害

利用者や家族など、国・事業主・本人以外の人の行為で起きた災害は、第三者行為災害と呼ばれます。この場合も労災保険の請求はでき、あわせて第三者行為災害届を労働基準監督署に提出します(労働者災害補償保険法施行規則第22条)。正当な理由なく届を出さないと、給付が一時差し止められることがあります。

相手から先に賠償を受けると、その額の分は労災保険から支給されないことがあります(労働者災害補償保険法第12条の4)。示談の話が出たら、応じる前に労働基準監督署へ相談してください。

カスハラによる精神障害も認定基準に明記

厚生労働省は2023年9月1日に精神障害の労災認定基準を改正しました(令和5年9月1日付け基発0901第2号)。仕事上の出来事を評価する表に、顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けたこと、いわゆるカスタマーハラスメントが新たに加わっています。

労災にあたるかどうかは、労働基準監督署が調査して判断します。職場での対処や2026年10月から事業主に義務づけられた措置は、利用者・家族からのハラスメントへの対処をご覧ください。

労災申請の手続きの流れ

手続きは、上司への報告、受診、請求書の提出、労働基準監督署の調査、支給決定の順に進みます。治療費と休業中の補償は別々の書類で請求します。施設に任せきりにせず、どの様式をいつ出すかを把握しておきましょう。

上司に報告し、日時と状況を記録する

けがをしたら、早めに上司や事業所の担当者に報告します。請求書の災害の原因と発生状況の欄は事業主の証明を受ける項目なので、いつ、どこで、何をしていたときに起きたかをその日のうちにメモしておくと、施設と認識がずれたときに説明しやすくなります。

事実だけを時系列で書く要領は、介護の事故報告書の書き方と共通しています。

受診するときに労災であることを伝える

受付で最初に労災での受診であることを伝えます。労災保険の指定医療機関なら、様式第5号を医療機関に出すことで、窓口での支払いなしに治療を受けられます。

指定医療機関以外で受診した場合は、いったん費用を立て替え、様式第7号で労働基準監督署に請求すると全額が支給されます。通勤災害の様式は下の表のとおりです。

請求する内容 業務災害 通勤災害 提出先
指定医療機関での治療 様式第5号 様式第16号の3 医療機関を経由して労基署
指定外の医療機関での治療費 様式第7号 様式第16号の5 労基署
休業中の補償 様式第8号 様式第16号の6 労基署

様式は厚生労働省の「労災保険給付関係主要様式」のページからダウンロードできます。薬局で薬を受け取った場合や柔道整復師の施術を受けた場合は様式第7号でも別の用紙になるので、同じページで確認してください。

休んだら様式第8号で休業補償を請求する

療養のために働けず、賃金を受けていない日は、休業補償給付を請求できます。支給は休業4日目からで、1日あたり給付基礎日額の60%に、特別支給金の20%が加わります(労働者災害補償保険法第14条)。給付基礎日額は、原則として事故の直前3か月の賃金を暦日数で割った額です。

最初の3日間は労災保険から支給されず、業務災害であれば事業主が平均賃金の60%を休業補償として支払います(労働基準法第76条)。様式第8号には事業主の証明欄のほか医師の証明欄もあり、休業が続く場合は期間を区切って繰り返し請求します。

施設が証明してくれない・労災にしたがらないとき

労災の手続きは施設が代わりに進めることも多いものの、請求するのは本人です。施設が証明を渋っても請求書は受理され、報告を怠った施設の側が法律違反に問われます。知っておきたい決まりは、証明義務、証明なしでの受理、労災隠しの罰則、療養中の解雇制限の4つです。

事業主には助力と証明の義務がある

労働者災害補償保険法施行規則第23条は、本人が手続きを行うのが難しい場合に事業主が助力すること(第1項)と、本人から証明を求められたときに事業主が速やかに証明すること(第2項)を定めています。証明を頼むときは、頼んだ日時と相手、返事の内容を記録しておきましょう。

証明欄が空欄でも請求書は受理される

厚生労働省のパンフレット「請求(申請)のできる保険給付等」は、労災保険の手続きは本人が自ら行って問題ないとし、会社が事業主証明を拒否するなどやむを得ない場合は、証明がなくても請求書は受理されると明記しています。茨城労働局のQ&Aも、災害の事実が確認できれば労災保険は支給されるとしています。

施設が証明しないときは、勤務先を管轄する労働基準監督署に相談し、証明を受けられなかった事情を伝えたうえで提出します。

労災隠しは労働安全衛生法違反

労働者が仕事中のけがで休んだとき、事業者は労働基準監督署に労働者死傷病報告を出さなければなりません(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)。休業4日以上は遅滞なく、4日未満は四半期ごとにまとめて報告し、2025年1月1日からは電子申請が義務化されています。

この報告をしない、または虚偽の報告をすることは、いわゆる労災隠しです。同法第120条第5号により50万円以下の罰金の対象になります。

療養で休む間の解雇は制限される

使用者は、仕事中のけがや病気の療養で休んでいる期間とその後30日間、原則としてその労働者を解雇できません(労働基準法第19条)。退職を考える場合は、介護職を辞めたいと感じたときの考え方も参考にしてください。

労災保険の給付の種類と時効

給付には、治療費や休業中の補償のほか、障害が残った場合や亡くなった場合のものもあります。いずれも請求しなければ支給されず、期限を過ぎると請求できなくなります(労働者災害補償保険法第42条)。給付ごとに時効の長さと起算日が違うので、表で確認してください。

給付 内容 時効
療養(補償)等給付 治療費、指定外で立て替えた費用、条件を満たす通院費 費用を支出した日ごとに、翌日から2年
休業(補償)等給付 休業4日目から、給付基礎日額の60%と特別支給金20% 賃金を受けない日ごとに、翌日から2年
障害(補償)等給付 治ゆ後に障害が残った場合の年金または一時金 治ゆした日の翌日から5年
遺族(補償)等給付 亡くなった場合の遺族への年金または一時金 亡くなった日の翌日から5年
葬祭料等 葬祭を行った方への給付 亡くなった日の翌日から2年

時効の起算日は厚生労働省のパンフレット(令和8年7月)によります。休業補償は日ごとに時効が進むため、休みが長引くときは区切って請求しておきます。

退職しても給付は受けられる

労災保険の給付を受ける権利は、退職によって変わりません(同法第12条の5)。厚生労働省のパンフレットによると、2回目以降の休業補償の請求が退職後になる場合、事業主の証明は不要です。

退職を決めたときの退職金の確認は、介護職の退職金を参考にしてください。

不支給の決定に納得できないとき

調査の結果、不支給になることもあります。決定に納得できない場合は、労働者災害補償保険審査官への審査請求、労働保険審査会への再審査請求、裁判所への取消訴訟という3段階の不服申立てがあります。いずれも期限があるので、決定の通知を受け取った日を控えておきましょう。

審査請求は決定を知った翌日から3か月以内

不支給などの決定に不服があるときは、決定をした労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求ができます(労働者災害補償保険法第38条、労働保険審査官及び労働保険審査会法第7条)。期限は、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内です(同法第8条)。

審査請求は文書でも口頭でもできます(同法第9条)。

再審査請求と取消訴訟

審査官の決定にも不服がある場合は、労働保険審査会に再審査請求ができます。期限は決定書の謄本が送られた日の翌日から2か月以内です(労働保険審査官及び労働保険審査会法第38条)。

裁判所に処分の取消しを求める訴えは、審査官の決定を経た後であれば、再審査請求を経ずに起こせます(労働者災害補償保険法第40条)。

労災の手続きで迷ったときの相談先

労災の手続きは、公的な窓口に聞くのが近道です。請求書の出し方や施設との行き違いは労働基準監督署が、制度の一般的な質問は労災保険相談ダイヤルが受け付けています。ハラスメントそのものの相談先とは役割が違います。

勤務先を管轄する労働基準監督署

請求書の提出先で、施設が証明しない、労災にしたがらないといった相談にも応じています。相談時間は平日8時30分から17時15分で、請求済みの案件の進み具合もここで確認できます。

労災保険相談ダイヤル

厚生労働省の委託事業で、請求書の書き方や給付の内容など一般的な質問に答えています。電話番号は0570-006031、受付は祝日・年末年始を除く平日8時30分から17時15分です(2026年11月時点)。

ハラスメントやストレスの相談

利用者や家族からの迷惑行為を職場でどう扱うか、事業所が動かないときの労働局などの窓口は、利用者・家族からのハラスメントへの対処で紹介しています。仕事のストレスについて話せる相談先は介護職のストレスの相談先をご覧ください。

まとめ

業務中のけがや、利用者からの暴力、カスハラで働けなくなった場合も、労災保険の対象になり得ます。手続きのポイントは次の4点です。

  • 受診時に労災と伝え、治療費は様式第5号か第7号、休業は様式第8号で請求する
  • 利用者からの暴力によるけがは第三者行為災害届もあわせて出し、示談の前に労働基準監督署へ相談する
  • 施設が証明してくれなくても請求書は受理されるので、労働基準監督署に相談して本人が提出する
  • 療養と休業の給付は2年、障害と遺族の給付は5年で時効になり、不支給への審査請求は3か月以内

迷ったら、勤務先を管轄する労働基準監督署か労災保険相談ダイヤルに早めに問い合わせてください。

よくある質問

Q. 仕事中のけがなのに健康保険証で受診してしまいました。

A. 労災として扱い直す必要があります。気づいた時点で受診した医療機関に労災であることを伝え、切り替えができるかを確認してください。切り替えができない場合の手続きは、勤務先を管轄する労働基準監督署で案内を受けられます。

Q. 退職した後でも労災の請求はできますか?

A. できます。給付を受ける権利は退職によって変わらず(労働者災害補償保険法第12条の5)、厚生労働省のパンフレットでは会社がなくなった場合でも請求できるとされています。ただし時効は退職後も進むので、期限に注意が必要です。

Q. 利用者の家族から賠償金を受け取ったら、労災はどうなりますか?

A. 同じ損害について賠償を受けた場合、その額の分は労災保険から支給されないことがあります。示談額以外の請求権を放棄する形ですべての損害について示談を結ぶと、原則として示談以後の給付は行われません。応じる前に労働基準監督署へ相談し、第三者行為災害届も提出してください。

Q. 請求してから支給までどのくらいかかりますか?

A. 厚生労働省のパンフレットでは、請求書を受理してから給付決定までおおむね1か月とされ、場合によっては1か月以上かかることもあるとされています。

参考資料・出典

この記事を書いた人

編集部

介護ワーカーズナビ編集部

介護職向け情報メディアの編集チーム

厚生労働省などの公的統計や制度資料をもとに記事を作成しています。数値には出典と年度を記載し、制度が変わったときに内容を見直しています。

NEXT次に読む3本