身体拘束の3要件と介護職の手続き|禁止11行為・記録・減算と虐待

身体拘束の要件と手続きをカンファレンスで確認する介護職員
公開日 執筆 介護ワーカーズナビ編集部

研修で身体拘束の3要件を学んでも、夜勤中にベッドから降りようとする利用者を前にすると迷うものです。実際には、拘束してよいかを決めるのは職員個人ではなく事業所全体で、手続きと記録がそろっていなければ虐待や減算につながります。この記事では、3要件、禁止11行為、手続きの流れ、記録、減算、虐待との関係を、運営基準と厚生労働省の手引きをもとに整理しました。現場の介護職の方と、委員会を担当する方に向けた内容です。

この記事でわかること

  • 身体拘束が原則禁止とされている根拠と、例外が認められる3要件
  • 禁止の対象として示されている11の具体的な行為
  • 緊急やむを得ない場合に介護職がたどる手続きと、記録に残す項目
  • 令和6年度介護報酬改定で広がった減算と、高齢者虐待との関係

身体拘束は運営基準で原則禁止されている

身体拘束は、介護保険サービスの運営基準(省令)で原則として禁止されています。本人や他の利用者の生命・身体を守るために緊急やむを得ない場合だけが例外で、その場合も態様や時間などの記録が義務づけられています。条文の位置はサービスの種類で違うため、勤務先の該当条を知っておくと職場の指針の根拠が分かります。

施設・居住系・短期入所系の根拠条文

特養の基準(平成11年厚生省令第39号)は、第11条第4項で緊急やむを得ない場合を除く身体的拘束等の禁止、第5項で記録、第6項で委員会・指針・研修の3つの措置を定めています。

グループホームは地域密着型サービスの基準(平成18年厚生労働省令第34号)第97条第5〜7項、短期入所生活介護は居宅サービス等の基準(平成11年厚生省令第37号)第128条第4〜6項に同じ構成の規定があり、老健や特定施設、小規模多機能なども同様です。職場ごとの働き方は特養の仕事内容と1日の流れやグループホームの仕事内容で紹介しています。

2024年度から訪問・通所系も対象に

令和6年度改定で、2024年4月1日から訪問系・通所系サービス、福祉用具貸与、居宅介護支援などにも、身体的拘束等の原則禁止と記録が義務づけられました。訪問介護は居宅サービス等の基準第23条第3号・第4号、通所介護は第98条第3号・第4号が根拠です。委員会・指針・研修の措置までは求められていません。

緊急やむを得ない場合の3要件

例外として身体拘束が認められるのは、3つの要件をすべて満たし、組織として慎重に確認した場合に限られます。3要件は2001年の「身体拘束ゼロへの手引き」で示され、2025年3月に厚生労働省が出した「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(以下、手引き)にも引き継がれています。

切迫性・非代替性・一時性の意味

3原則とも呼ばれる3要件は次のとおりで、1つでも欠ければ例外には当たりません。

要件 内容(手引きの定義)
切迫性 本人または他の入所者(利用者)等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
非代替性 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと
一時性 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

手引きは、介護現場でこの3要件を満たすケースは極めて少ないとし、拘束の方法も最も制限の少ないものを選び、必要とされる最も短い時間を想定するよう求めています。

判断するのは担当者ではなく事業所全体

手引きは、緊急やむを得ない場合に当たるかの判断を担当職員の個人や数名で行わず、事業所全体として判断できるよう、手続きをあらかじめ定めておくよう求めています。委員会で手続きを決め、個別の事例は関係者が幅広く参加する会議で判断する体制です。高齢者虐待対応の国マニュアルも、職員の不足など施設側の理由は例外から除かれるとしており、人手不足は拘束の理由になりません。

身体拘束にあたる11の行為

手引きには、身体拘束廃止・防止の対象となる具体的な行為が11項目示されており、研修では禁止11行為とも呼ばれます。2001年の手引きから引き継がれたもので、ベッド、車いす、衣類、薬、居室の場面にわたります。

手引きが示す11項目

手引きの表現を要約すると次のとおりで、1〜3がベッドや車いすでの固定と柵、4〜8がチューブ、車いす、衣類、9〜11が迷惑行為、薬、居室に関わるものです。

1. 一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む

4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る

5. チューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、ミトン型の手袋等をつける

6. ずり落ちや立ち上がりを防ぐために、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける

7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使う

8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる

9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る

10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる

11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する

11項目はあくまで例示

手引きは、11項目は例示であり、ほかにも身体拘束に当たる行為があると注意を促しています。判断のポイントは、本人の行動の自由を制限しているかどうかです。「ちょっと待ってね」と言葉で動きを止めるスピーチロックも身体拘束と位置づけ、言い換えに取り組む事業所の例が載っています。

介護職がたどる手続きの流れ

緊急やむを得ない場合の手続きは、気づきと報告、カンファレンス、本人と家族への説明、記録、再検討と解除の順に進みます。介護職の役割は、気づきを事実として残し、判断に必要な観察と工夫の記録を積み上げることです。流れを知っておけば、その場の判断で拘束に踏み切らずに済みます。

気づいたら事実を記録して報告する

転落などの危険が心配な場面に気づいたら、起きた事実を記録し、リーダーや委員会の担当者に報告します。その場の判断で柵を増やしたりベルトをつけたりはしません。試している工夫は、申し送りのコツとテンプレートを参考に勤務交代のたびに共有しましょう。

カンファレンスで3要件と代替方法を確認する

カンファレンスでは、3要件の一つひとつについて満たすと言える根拠を確かめます。手引きは、代替方法の洗い出しを複数の職員や多職種で行ったか、試した結果を十分に検討したかを確認点に挙げており、介護職の観察記録と工夫の結果が判断の土台になります。

本人・家族への説明は同意とは違う

拘束を行うと判断した場合は、本人や家族に、内容、目的、理由、時間、時間帯、期間をできる限り詳しく説明し、十分な理解を得るよう努めます。事前に施設の考え方を説明していても、実際に拘束する時点で個別に説明します。手引きは、家族への説明の確認は同意ではなく、家族の同意は拘束を認める根拠にならないと明記しています。

再検討を続け、要件がなくなれば解除する

拘束中は本人の様子を定期的に確かめ、3要件に当たるかを見直し続けます。手引きは、一時的に拘束を外して状態を確かめ、要件に当たらなくなったら直ちに解除するよう求めています。

記録に残すことと保存期間

身体拘束の記録は運営基準で義務づけられ、行政の運営指導や監査で提示を求められます。記録がなければ減算の対象にもなりかねません。省令が定める4項目に加えて、手引きは判断の理由と再検討の経過も求めており、保存期間は省令と条例で決まります。

運営基準で決まっている4項目

運営基準が求めるのは、拘束の態様、時間、その際の心身の状況、緊急やむを得ない理由の4項目です。訪問・通所系も、2024年4月から同じ項目の記録が必要になりました。

判断の理由と再検討の経過も残す

手引きは、3要件それぞれを満たすと判断した理由を具体的に書き、再検討のたびに記録を加えるよう求めています。様式は事業所ごとに違いますが、手引きの記載から整理すると次の項目が入ります。

記録の場面 主な項目
開始の検討 アセスメント、3要件それぞれの判断理由、試した代替方法
実施中 態様と時間、開始日と解除予定日、日々の観察、本人の状態や家族の意見
再検討・解除 再検討の日と結論、一時的に外したときの様子、解除の日時
委員会の議事録 開催日時、参加者、議題、拘束中の人数と3要件の判断理由、解除の是非

日々の記録の基本は介護記録の書き方と場面別の例文で、転倒などの事故の報告書は介護の事故報告書の書き方と記入例で解説しています。

保存期間は完結の日から2年

特養の基準第37条第2項は、身体的拘束等の記録を含むサービス提供の記録を、その完結の日から2年間保存するよう定めています。実際の基準は都道府県や市町村の条例で定められ、より長い期間を求める自治体もあるため、勤務先の規程で確認してください。

身体拘束廃止未実施減算と4つの措置

身体拘束廃止未実施減算は、拘束を行ったことではなく、記録や委員会などの措置を講じていないことに対して、利用者全員分の報酬が減る仕組みです。令和6年度改定で対象が広がり、短期入所系と多機能系は経過措置を経て2025年4月から適用されています。率と期間、研修の回数は次のとおりです。

対象サービスと減算率

施設系の減算は平成18年度に1日5単位で始まり、平成30年度改定で所定単位数の10%に改められました。短期入所系・多機能系は令和6年度改定で新設され、1年間の経過措置が2025年3月31日で終わっています。

サービスの種類 減算
施設系(特養・老健・介護医療院)、居住系(特定施設・グループホーム) 所定単位数の100分の10
短期入所系、多機能系(小規模多機能・看護小規模多機能) 所定単位数の100分の1(2025年4月から適用)
訪問系、通所系、福祉用具、居宅介護支援 減算なし(原則禁止と記録は義務)

減算になる条件と期間

対象は、拘束時の記録、委員会の3か月に1回以上の開催と結果の周知、指針の整備、研修の定期的な実施のうち、どれか1つでも欠けた場合です。事実が生じたら速やかに改善計画を提出し、3か月後に改善状況を報告します。減算は事実が生じた月の翌月から、改善が認められた月まで続きます。

研修は年2回以上と新規採用時

身体的拘束等の適正化の研修は、解釈通知で年2回以上と新規採用時に行うこととされています。特養は第11条第6項第3号、短期入所生活介護は第128条第6項第3号が根拠です。ほかの法定研修は介護施設の法定研修一覧で確認できます。

身体拘束と高齢者虐待の関係

手続きを経ない身体拘束は、高齢者虐待防止法上の身体的虐待として扱われます。緊急やむを得ない場合の拘束は虐待ではありませんが、3要件の確認や記録を欠けば線引きを越えます。職員には通報の義務があり、通報を理由にした不利益な扱いは禁じられています。

適正な手続きを経ない拘束は身体的虐待にあたる

高齢者虐待防止法は第2条第5項で、養介護施設従事者等による高齢者虐待を定義しています。厚生労働省の国マニュアルは、緊急やむを得ない場合以外の身体的拘束等を身体的虐待の類型に挙げ、適正な手続きを経ていない身体的拘束等は原則として高齢者虐待に当たるとしています。委員会の判断や記録を欠いた拘束も、虐待と判断されうるわけです。

職員の通報義務と不利益な扱いの禁止

同法第21条第1項は、働いている施設や事業所で職員による虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた養介護施設従事者等に、速やかな市町村への通報を義務づけています。第7項では、通報を理由に解雇などの不利益な扱いを受けないとされています。逆に利用者や家族から職員が受ける迷惑行為への対応は利用者・家族からのハラスメントへの対処でまとめています。

まとめ

  • 例外は3要件をすべて満たし、事業所全体で判断した場合に限られる
  • 11項目は例示で、行動の自由を制限しているかで判断する
  • 家族の同意は拘束の根拠にならない
  • 態様と時間、心身の状況、理由を記録し、完結の日から2年保存する
  • 手続きを経ない拘束は原則として虐待に当たり、職員には通報義務がある

職場の指針と記録様式を確かめておくと、迷ったときに手続きどおり動けます。

よくある質問

Q. センサーマットは身体拘束にあたりますか?

A. 11項目には含まれていませんが、11項目は例示で、判断のポイントは行動の自由を制限しているかどうかです。手引きの事例でも、センサーマットの考え方が委員会の議題に挙がっています。使い方は職場の指針と委員会の決定に従います。

Q. 本人が希望すればミトンを使ってもよいですか?

A. 手引きは、身体拘束が例外的に許容されるのは客観的に緊急やむを得ない状況があるときで、本人の意思によるものではないとしています。本人の希望だけを理由には使えず、3要件の確認と記録の手続きが必要です。

Q. 夜間だけ居室に鍵をかけるのは認められますか?

A. 自分の意思で開けられない居室等への隔離は、11項目の11番目に当たります。夜間だけであっても、3要件の確認と記録がなければ認められず、人手不足も理由になりません。

Q. 家族から拘束してほしいと頼まれたらどうすればよいですか?

A. 家族の希望や同意は、拘束を認める根拠になりません。頼まれた内容を記録してリーダーや委員会に報告し、家族の不安への対応を事業所として検討します。

参考資料・出典

この記事を書いた人

編集部

介護ワーカーズナビ編集部

介護職向け情報メディアの編集チーム

厚生労働省などの公的統計や制度資料をもとに記事を作成しています。数値には出典と年度を記載し、制度が変わったときに内容を見直しています。

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