新人の指導係をお願いね、と声をかけられたものの、自分が教わったときも手探りで、何から準備すればよいか迷う方は多いでしょう。厚生労働省も、教える人によって目標や手順がばらばらだと、教わる側はかえって混乱すると指摘しています。この記事では、公的なOJTの手引きと制度をもとに、指導体制、6か月までの計画表、教え方、評価と面談、法定研修の組み込み方を整理しました。新人の指導係を任された介護職の方と、教育担当のリーダーの方に向けた内容です。
この記事でわかること
- 新人指導を始める前に決めておく3つのこと
- プリセプター制・チューター制などの違いと組み合わせ方
- 6か月までの計画表と、チェックリスト・面談の進め方
- 法定研修と雇入れ時教育をOJTに組み込む方法、指導係の負担の相談先
新人指導は計画表・担当者・評価を決めてから始める
OJT(On the Job Training)は、日々の業務の中で仕事を教える育成方法です。始める前に決めておきたいのは、何をいつまでに教えるかの計画表、誰が責任を持って教えるかの担当者、どう確かめるかの評価の3つです。これがないと、教え方が日によって変わりやすくなります。
教え方を人任せにしない理由
介護労働安定センターの令和7年度介護労働実態調査では、直前の介護の仕事を辞めた理由で最も多いのが職場の人間関係で27.3%でした。人間関係で辞めた人の内訳の最多は、上司や先輩からの指導や言動がきつかった、パワーハラスメントがあったの45.8%で、上司の業務指示が不明確だったという回答も37.4%ありました。
厚生労働省は介護施設の業務改善の取り組みの一つにOJTの仕組みづくりを挙げ、教育担当によって教え方がぶれると、業務の手順やケアの質を一定に保ちにくいとしています。示されている手順は次の3段階です。
- 目標、教えるべき内容、手順を明確にする
- 職員を定期的に評価し、結果を本人に伝える
- 教える側が教える技術を学ぶ
以下では、この3段階を介護の職場に当てはめて説明します。
新人指導で決めておく3つのこと
3つの中身を表にまとめました。計画表は指導係1人で作らず、リーダーや管理者と一緒に決めておくと、指導係が替わっても同じ内容で引き継げます。
| 決めること | 中身の例 |
|---|---|
| 計画表 | 期間、時期ごとの到達目標、法定研修の受講時期 |
| 担当者 | 指導係(プリセプター)、相談役、指導係に助言する人 |
| 評価 | チェックリスト、評価の時期、面談の日程 |
プリセプター制・チューター制などOJT体制の組み方
新人の付け方にはいくつかの型があり、名前が違えば役割も違います。介護の職場は交替制勤務のため、1人の先輩がずっと同じシフトに入る形は組みにくいのが実情です。型の違いを知り、勤務形態に合う組み合わせを選びましょう。
プリセプター・チューター・エルダーの違い
厚生労働省の検討会資料「臨床における新人教育・訓練の方法」(2009年、看護職の新人教育を整理したもの)は、主な型を次のように定義しています。
| 型 | 定義の要点 | 介護での使い方の例 |
|---|---|---|
| プリセプター制 | 決められた先輩が一定期間マンツーマンで担当する | 入職直後の数週間、同じシフトで付く |
| 補助アサインメント | 新人と先輩がペアで受け持つが、先輩は日替わり | 指導係が不在の日の指導 |
| チューター制 | 決まった相談相手がいるが、一緒に勤務はしない | 夜勤明けや休みでも相談できる窓口 |
| エルダー制 | 決まった先輩が相談役となり、生活・精神面を支える | 業務以外の悩みの受け皿 |
同じ資料は、チューター制だけでは日々の実践的な指導ができず、補助アサインメントと組み合わせることが多いとしています。
交替制の職場では担当者と相談役を分ける
一般財団法人長寿社会開発センターの「訪問介護員の初任者に対するOJTの手引き」(2012年3月)は、新人ごとに指導担当を決めて責任を明確にし、指導担当に助言するスーパーバイザーを置くことが有効だとしています。施設なら、指導係に加えて日替わりで教える先輩の範囲を決め、リーダーが指導係の相談に乗る形が考えられます。
期間の目安は6か月程度
同じ手引きは、初めて担当する利用者へのサービスに習熟するまでの目安を6か月程度とし、勤務頻度や習熟状況で調整するとしています。特養の新任職員の育成を調べた研究抄録(ピーエムシー株式会社、2017年・2018年、少数の施設への聞き取り)では、夜勤を含む全シフトに入る独り立ちまでが、おおよそ6か月〜1年でした。
6か月までの計画表の例
計画表には、時期ごとの新人の到達点と指導係の関わり方をセットで書きます。次の表は、OJTの手引きの評価時期と、2017年の研究抄録が参考にした状況対応型リーダーシップの4段階(指示、コーチ、支援、委任)を、施設向けに並べ直した例です。
段階ごとの計画表
| 時期 | 新人の段階 | 指導係の関わり | 面談・評価 |
|---|---|---|---|
| 入職〜2か月 | 職場と基本の流れを知る | 手順を見せて説明し、同じ勤務で付く | 1か月面談 |
| 2〜4か月 | 日勤の業務を一緒に行う | 一緒に行い、その場で確認する | 3か月面談・評価 |
| 4〜5か月 | 一人で行い、困ったときに聞く | 離れて見守り、記録で振り返る | 必要に応じて |
| 6か月〜 | 夜勤を含めて独り立ち | 任せて、定期的に相談に乗る | 6か月面談・評価 |
未経験の新人は、最初の段階を長めに取りましょう。働き始めるまでの流れは介護職を未経験から始めるには|資格なしOKの施設と5ステップで紹介しています。
計画表に入れる到達目標
到達目標には、介護キャリア段位制度の物差しが使えます。内閣府と厚生労働省の事務連絡(2013年2月8日)の参考資料は、レベル1を初任者研修で基本を習得した段階とし、レベル2を次の2つに分けています。
- 基本的な知識・技術を活用し、決められた手順等に従って基本的な介護を実践できる(レベル2①)
- 一定の範囲で、利用者のニーズや状況の変化を把握・判断し、それに応じた介護を実践できる(レベル2②)
例えば6か月の到達目標をレベル2①、1年後をレベル2②に置くと、計画表の終わりがはっきりします。
新人に教える技術
教える技術は、特別な話術というより、手順の分け方と手の離し方の問題です。OJTの手引きは、学んだことを生かす実践と、その結果の振り返りの両方を持てる点をOJTの特徴としています。実践と振り返りを1セットにして進めましょう。
手順書に沿って分けて教える
業務は、準備、実施、記録・報告のように区切ると覚えやすくなります。教える内容は職場の手順書に沿わせ、指導係の自己流を足さないことが、教え方をそろえる近道です。申し送りと記録を教えるときは、介護の申し送りのコツ|例文・書き方のテンプレートと伝わる話し方や介護記録の書き方|伝わる基本ルールと場面別の例文・NG例も教材に使えます。
見せる・一緒にやる・見守る・任せるの順で手を離す
計画表の4段階は、見せて説明する、一緒に行う、離れて見守る、任せるという、指導係の手の離し方の順番でもあります。2018年の研究抄録では、指導期間の後半に指導担当者の関わりが急に減り、新人が不安や戸惑いを感じていたと報告されています。任せた後もチーム全体で関わり、相談の時間を残しておきましょう。
理由を添え、質問しやすい場をつくる
手順に、なぜそうするのかを添えると、場面が変わっても応用が利きます。OJTの手引きも、初回の同行後に新人が分からなかったことを引き出し、今後の学習課題を一緒に確認することを勧めています。言葉遣いの基本は介護の接遇マナー5原則|言葉遣い・声かけの具体例とNG対応が参考になります。
評価とフィードバックの進め方
評価は新人を選別するためではなく、次に何を教えるかを決めるために行います。チェックリストの項目と面談の時期を計画表に入れ、入職時に新人にも伝えておくと、評価が突然の注意にならず、新人も準備ができます。
チェックリストと3段階評価
OJTの手引きは、厚生労働省の職業能力評価シートを修正し、事業所ごとの初任者能力評価チェックリストを作ることを勧めています。例示された項目は、法令やルールの遵守、チームワーク、利用者の安全確保、サービスの準備・実施・記録などです。評価基準の例は次の3段階です。
- ○ 一人でできている
- △ ほぼ一人でできている(一部、周囲の助けが必要)
- × できていない(常に周囲の助けが必要)
到達の判定例として、×がなく○が7割以上という目安も示されています。
面談は1か月・3か月・6か月・1年を目安に
同じ手引きは、評価時期を1か月、3か月、6か月、1年の年4回としています。流れは、新人の自己評価、指導担当の評価とコメント、到達度の判定、フィードバック面談の順です。×の項目は、次の期間の目標に置き直します。
できていない点は事実と行動で伝える
できていない点は、性格や姿勢ではなく、いつ、どの場面で何をしたかという事実と、次にどうするかという行動で伝えます。指導の言動がきついことは離職理由の上位にあり、伝え方は職場全体でそろえたい点です。先輩と新人の関係については介護職の人間関係がつらいときの対処法|先輩・多職種・新人への対応でも取り上げています。
法定研修と雇入れ時教育をOJTに組み込む
新人には、職場の判断とは別に、法令で求められる研修や教育があります。最初の1か月の計画表に法定の内容を入れておくと、受講の漏れを防げます。研修の全体像は介護施設の法定研修一覧【2026年版】|回数・根拠条文と時間外研修の給料にまとめています。
新規採用時に求められる研修
運営基準の解釈通知では、虐待防止の研修は新規採用時にも実施することが重要とされ、特養では身体拘束の適正化とBCPの研修も新規採用時に行うとされています。施設や通所では、医療・福祉関係の資格を持たない新人に、採用後1年以内に認知症介護基礎研修を受けさせる義務があります。身体拘束の考え方は身体拘束の3要件と介護職の手続き|禁止11行為・記録・減算と虐待で解説しています。
労働安全衛生法第59条の雇入れ時教育
労働安全衛生法第59条は、労働者を雇い入れたとき(第1項)と作業内容を変更したとき(第2項)に、業務に関する安全衛生教育を行うよう事業者に義務づけています。教える事項は労働安全衛生規則第35条の8項目で、作業手順、整理整頓と清潔の保持、事故時等の応急措置と退避などです。2026年11月時点の条文に業種による省略の規定はなく、十分な知識と技能があると認められる人に限り該当項目を省略できます。
指導係の負担と相談先
指導係は自分の業務を抱えたまま教えることが多く、負担が見えにくい役割です。新人指導は処遇改善加算の要件にも関わる職場の仕組みなので、指導の時間や役割分担は、遠慮せずリーダーや管理者に相談してよい事柄です。
指導の時間を業務として扱ってもらう
介護職員等処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅱは、資質向上の計画に沿ったOJTやOFF-JTなどの実施と能力評価を、満たし方の一つに挙げています(老発0313第6号、2026年3月13日)。職場環境等要件の選択肢にも、エルダー・メンター制度の導入(⑦)と、キャリア面談など定期的な相談の機会の確保(⑧)があります。指導の時間をシフトに組み込むよう相談するときの根拠になります。
リーダーとの役割分担と相談先
日々の指導と記録は指導係、評価の最終判断や配置の調整はリーダーや管理者と分けておくと、抱え込まずに済みます。新人が辞めたいと漏らしたときも、指導係だけで判断せず管理者と共有しましょう。外部の相談先は介護職を辞めたいと感じたら|理由別の対処法と辞め時の判断基準の一覧が参考になります。
まとめ
新人指導は、計画表、担当者、評価の3つを決めてから始めると、教え方のぶれを減らせます。要点は次のとおりです。
- 交替制の職場は、プリセプターと相談役を分けて組み合わせる
- 独り立ちの目安は6か月程度とし、見せる・一緒にやる・見守る・任せるの順で手を離す
- チェックリストと1か月・3か月・6か月・1年の面談で、次に教えることを決める
- 法定研修と雇入れ時教育は、最初の1か月の計画表に入れる
面談のたびに、次の期間の目標を見直していきましょう。
よくある質問
Q. 新人の独り立ちはいつ頃が目安ですか?
A. OJTの手引きは、担当する利用者へのサービスに習熟するまでを6か月程度としています。特養の研究抄録では、夜勤を含む全シフトに入るまでがおおよそ6か月〜1年でした。勤務頻度や経験で差が出るため、日数よりチェックリストの到達度で判定するのが現実的です。
Q. 未経験の新人と経験者で計画を変えてもよいですか?
A. 変えてかまいません。雇入れ時の安全衛生教育は、十分な知識と技能があると認められる人なら該当項目を省略できます(労働安全衛生規則第35条第2項)。一方、虐待防止などの新規採用時の研修は、経験にかかわらず対象です。
Q. 指導係に手当は出ますか?
A. 指導係の手当を義務づける法令はなく、出るかどうかは就業規則や賃金規程しだいです。処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅰは、職位や職責、職務内容に応じた任用要件と賃金体系を定め、就業規則などで書面にするよう求めています。指導係の位置づけを規程で確認してみてください。
Q. 新人が辞めたいと言ってきたらどうすればよいですか?
A. 指導係だけで判断せず、話を聞いたうえでリーダーや管理者と共有します。職場の外で相談したい場合は、介護労働安定センターの相談支援や総合労働相談コーナーを案内する方法もあります。
Q. 指導係自身が教え方を学ぶ方法はありますか?
A. 厚生労働省は、OJTの仕組みづくりの段階の一つに、教える側を対象にした研修会や勉強会を挙げています。将来チームの指導役を目指すなら、認知症介護実践者研修とは|受講要件・日数・費用の県別比較と修了後の役割も選択肢になります。
参考資料・出典
- 介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)(厚生労働省老健局長通知 老発0313第6号、2026年3月13日)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675724.pdf
- 訪問介護員の初任者に対するOJTの手引き(一般財団法人長寿社会開発センター、平成23年度老人保健健康増進等事業、2012年3月)https://nenrin.or.jp/center/pdf/23_houmon.pdf
- OJTの仕組みづくり(厚生労働省 介護分野における生産性向上ポータルサイト)https://www.mhlw.go.jp/kaigoseisansei/what/effort6.html
- 介護サービス事業(施設サービス分)における生産性向上に資するガイドライン 概要(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/H30_Seisansei_shisetsu_Guide_overview.pdf
- 令和7年度介護労働実態調査結果の概要について(公益財団法人介護労働安定センター、2026年7月29日公表)https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R7_jittai_chousa_press.pdf
- 介護キャリア段位制度の実施について(内閣府・厚生労働省老健局 事務連絡、2013年2月8日、三重県掲載)https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000027215.pdf
- 臨床における新人教育・訓練の方法(厚生労働省 検討会資料、2009年7月)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0709-14f.pdf
- 特別養護老人ホームにおける新任介護職員の育成に関する研究(抄録)(斎藤洋、ピーエムシー株式会社、2017年)https://www.pmc-jinzai.com/wp2020/wp-content/uploads/平成29年%E3%80%80【抄録】特別養護老人ホームにおける新任介護職員の育成に関する研究.pdf
- 特別養護老人ホームにおける新任介護職員の育成に関する研究(抄録)(斎藤洋、日本社会事業大学大学院・ピーエムシー株式会社、2018年)https://www.pmc-jinzai.com/wp2020/wp-content/uploads/平成30年%E3%80%80【抄録】%E3%80%80特別養護老人ホームにおける新任職員の育成に関する研究(2).pdf
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 相談支援(無料)(公益財団法人介護労働安定センター)https://www.kaigo-center.or.jp/jigyo/soudan/














